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羽生善治九段「何が悪かったのか、調べてみないとわからない」…藤井聡太五冠が「現代最強者の将棋」たる凄みとは〈王将戦第1局振り返り〉 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph by日本将棋連盟

posted2023/01/12 11:01

羽生善治九段「何が悪かったのか、調べてみないとわからない」…藤井聡太五冠が「現代最強者の将棋」たる凄みとは〈王将戦第1局振り返り〉<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

終局後の藤井聡太王将と羽生善治九段。まず第1局を制したのは藤井王将だった

 羽生は過去のタイトル戦の対局などで、実戦経験が多々あった。本局で用いた理由について、終局後に「作戦のひとつとして採用しました」と語った。実戦は、藤井が▲3七銀から▲4六銀と中段に進める「早繰り銀」の作戦を採ると、羽生も同じ作戦を採った。1手の損得の影響はなくなった。

年代や立場を超えて同化しているように見えた

 中盤以降は難しい攻防が繰り広げられた。藤井は要所の局面で76分、70分、44分、74分、60分と長考を重ねた。羽生も同じく70分、101分(1日目の封じ手)、44分、63分と長考を重ねた(※持ち時間は各8時間)。

 藤井が中盤で先攻し、羽生が終盤で追い込む、というのが予想されたパターンだった。実際に、藤井は▲4三銀と敵陣に打つ果断の一手を放ち、飛車を捨てて攻め込んだ。羽生は受けながら機を見て反撃に転じた。終盤は激しい寄せ合いになると思われたのだが……。

 第1局・2日目の現地では、対局場の近くの会場(定員は130人)で大盤解説会が開かれた。全国から約30倍の応募があったという。別の2カ所の会場にも、多くの将棋ファンが詰めかけた。今回の勝負への注目度の高さがうかがえた。さらに王将戦の対局を無料生配信した「囲碁・将棋チャンネル」のYouTubeでは、終局間際に約13万人が視聴したという。

 私こと田丸昇九段は、前記の将棋チャンネルで王将戦の対局を観戦した。

 藤井はいつものように盤面に集中していた。羽生は当初はやや落ち着かない様子だったが、戦いが進むにつれて「なじんだ」感じになった。両者の対局光景は、年代や立場を超えて同化しているように見えた。

 AI(人工知能)の形勢判断の数値は、中盤の初めは《55点-45点》前後だったが(前者が藤井)、半ばには《75点-25点》となり、終盤では《95点-5点》と大差がついた。

 全盛期の羽生は、苦境に陥っても「羽生マジック」と呼ばれた勝負手で打開したものだ。しかし藤井との対局では、それを打ち出す手立てはなかった。

“相手に不利を感じさせないまま勝つ”という凄み

 羽生は終盤の局面で、席を立ってトイレに行った。自分に負けを言い聞かせたようだ。その数手後に△9五角の王手を打ち、藤井の▲8六銀の合駒を見て投了した。

 第3図は、投了後に予想される部分局面。以下は▲6二金△同飛▲同成桂△同玉▲5二飛△6三玉(△7一玉は▲5三馬以下詰み)▲7五桂△7四玉▲6四馬△同玉(△8四玉は▲8二飛成で詰み)▲6五金(第4図)で詰み。

 藤井はいつものように、鮮やかに仕留める読みだった。内容的に完勝といえる。

【次ページ】 第1局に勝利した後は“ウサギコスプレ”姿も

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