スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
W杯最多イエロー18枚乱発にメッシ「試合前から心配してたんだ」“嫌われた主審”の正体…なぜ“不思議と高い評価”を保っていたのか
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2022/12/24 11:09
オランダvsアルゼンチンのキックオフ前、ファンダイク、メッシとともに写真に収まるラオス主審
「俺から話せないのならば、これ以上プライベートの質問をしてくるな」
今年5月、ディアリオ・アス紙の大御所記者アフルレド・レラーニョが書いたコラムは痛烈だった。
「接触プレーに寛容なプレミア流のジャッジは、頻繁にプレーを止める神経質なジャッジにうんざりしていたファンやメディアの好感を得た。だがひとたび支持を得た後は『寛容さ』と『曖昧さ』が混同し、彼のスター気取りな性格を際立たせる役割しか果たさなくなっている。彼は長らく他と一線を画すことに執着してきた。テレビカメラを意識しつつ、有名選手と馴れ馴れしく絡む姿は見るに堪えない」
叩かれながらも不思議と高い評価を保ち続けている
昨季終盤のカディス対レアル・マドリー戦のキックオフ前、マテウはリーグ優勝を決めたレアル・マドリーの選手たちを讃えるべく、カディスの選手たちが作った「パシージョ(花道)」にいち選手のごとく加わった。
先のコラムでレラーニョは、それが「ただ自分が注目されるために行った、誤解を招く恐れしかない無意味な行為」とばっさり。「判事であるレフェリーは選手と距離を置くべきだ。パシージョになど加わるべきではないし、カメラの前でこれ見よがしに選手と絡む必要もない」と意見している。
今ではすっかり「我が道をゆく目立ちたがり屋」というイメージが確立したマテウだが、多くのアンチに叩かれながらも不思議と高い評価を保ち続けている。
スペインでは依然としてトップレフェリーの地位を保っているだけでなく、2021年にはチャンピオンズリーグの決勝を担当。ワールドカップには2大会連続で主審に選出されている。これはスペイン人主審としては、1958~66年まで3大会連続で選出されたフアン・ガルデアサバル・ガライ以来の快挙だという。
決勝の主審候補の1人だったそうだが…
カタールW杯ではグループステージのカタール対セネガル、イラン対アメリカを裁き、4年前には叶わなかった決勝トーナメントのメンバーに残った。スペインが16強で敗退したこともあり、FIFA審判委員会のピエルルイジ・コリーナ会長はマテウを決勝の主審候補の1人に挙げていたそうだが、それも準々決勝で受けた批判によりたち消えとなったようだ。
結局、マテウは準決勝を前に帰国の途につくことになった。
オランダ対アルゼンチン戦があそこまで荒れたのは彼だけのせいではないだけに、気の毒な結末ではある。
とはいえそれも、長年に渡って「マテウ流」を貫いてきた結果と考えれば、仕方のないことと言えるかもしれない。
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