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〈W杯史に残る誤審劇〉韓国vsイタリアから20年…「レフェリー人生最高の試合の1つ」忌み嫌われた審判モレノが認めない“2つのミス”
posted2022/06/18 11:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Sandra Behne/Getty Images
バイロン・モレノの名を聞けば、カルチョの国は今でも胸中にざわめくものを感じずにいられない。
モレノは、世紀の誤審試合として知られる日韓W杯の「韓国対イタリア戦」を裁いたレフェリーとして、イタリア中で忌み嫌われている。
今から20年前、南米サッカー連盟派遣審判として日韓W杯へ出向いたモレノは、大田(韓国)で行われた決勝トーナメント1回戦の笛を吹いた。延長戦にもつれこんだ試合は、FW安貞桓(アン・ジョンファン)のゴールデンゴールによって韓国が優勝候補イタリアを破る金星を上げたが、開催国有利に働いたジャッジには誤審との非難が殺到した。
当時のイタリア代表監督ジョバンニ・トラパットーニは、御年83歳になった今もモレノを許していない。
「あの男がやらかしてくれた韓国戦のことを思うと、怒りで言葉にならん。あの時、VARがあれば勝っていたのは我々だ」
今年4月、伊紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』がモレノへのリモート・インタビューを行ったところ、やはり大きな反響を呼んだ。未だ遺恨は晴れていない。
「レフェリー人生最高の試合の1つですね」
サッカー史上に残る誤審ゲーム。
あの韓国対イタリア戦は、モレノにとって何なのか。
「レフェリーとして自己採点をするなら?(10点満点で)8.5です。韓国対イタリア戦は、レフェリー人生最高の試合の1つですね」
選手採点でいえばハットトリックにアシストを加えた英雄にのみ与えられるような高評価を、モレノは堂々と口にした。あまりの自画自賛ぶりに、質問を投げかけたイタリア人記者の方が言葉を失い、唖然としたほどだ。
2002年6月18日、大田ワールドカップ競技場で主審を務めたとき、モレノは32歳だった。今日に至るまで多くの取材を受けており、日韓大会の試合のビデオは何度も見返している。『ガゼッタ』紙のインタビューでは、20年前の試合に出場した選手名をいくつも挙げながら、ゲームの流れを具体的にそらんじてみせた。
たった1つだけ認めた“あの試合での誤審”
モレノは、韓国対イタリア戦での誤審をたった1つだけ認めている。
試合終盤の72分に、MFジャンルカ・ザンブロッタを負傷交代に追い込んだFW黄善洪(ファン・ソンホン)のラフプレーだ。タッチライン際を走るザンブロッタの死角から、ファンがスパイクの裏を見せたまま臀部にタックルを食らわせたもので、当時の基準でも危険極まりない反則行為にあたる。
だが、主審モレノは退場どころか警告すらも与えなかった。