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「度が過ぎると体罰に」“叱る方が育つは幻想”心理士がズバリ…大谷翔平と藤井聡太の共通点は「苦痛という言葉すら浮かばない」

posted2025/05/10 17:00

 
「度が過ぎると体罰に」“叱る方が育つは幻想”心理士がズバリ…大谷翔平と藤井聡太の共通点は「苦痛という言葉すら浮かばない」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

大谷翔平と藤井聡太。野球と将棋という世界の違いがあるが「好きなことに突き進んでいく」という共通点を心理士は見出している

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村中直人/大利実

村中直人/大利実Naoto Muranaka/Minoru Ohtoshi

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Nanae Suzuki

 時代遅れの指導はなぜなくならないのか?『脱・叱る指導 スポーツ現場から怒声をなくす』(カンゼン)から一部を転載してご紹介します。〈全3回の第1回/第2回につづく〉
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 指導者はなぜ叱る指導が必要だと思うのか――スポーツ指導のこれからを考えるうえで、とても大切な問いですね。ここまでは、「叱る」について生来的に持つ処罰欲求や脳の仕組みから、その理由を解説してきましたが、今度は別の視点から紐解いていきます。

「苦痛神話」は体罰につながるのでは

 それは、「叱ったほうが人は育つ」という、人間の「思い込み」や「幻想」からくるものです。「人は苦痛を与えられることで強くなっていく、人が成長するためには苦しみを乗り越えなければいけない」という考え方を、私は「苦痛神話」と呼んでいます(苦痛神話が幻想であることの根拠は、2章で詳しく説明します)。

「苦痛神話」はとても根強くて、「厳しく接するからこそ、人は成長していく」「叱責すれば反省して、成長につながっていく」という前提で、「甘やかしてはいけない」と思う親や指導者が多いのが現状です。

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 特にスポーツの世界では、そう考えている指導者が一定数いるのではないでしょうか。「苦痛神話」を信じる指導者は、あえて厳しい試練を与え、それを乗り越えることによって精神的に強くなってほしいと願うようになります。また、「叱られたことがない人は、打たれ弱い人間になってしまう」と考える人も多いでしょう。

 この考え方が本書のテーマである「叱る指導」の根拠となり、度が過ぎると「体罰」につながっていくのは、みなさんも想像がつくはずです。子どもたちが常に右肩上がりに伸びていくことなど、ありえません。成長の過程の中でどこかで壁にぶつかることがあるでしょう。

 けれども、第三者が意図的に与える苦痛に、はたしてどれほどの効果があるのでしょうか、本当に必要なことは何かを慎重に考えなくてはいけません。

大谷選手、藤井七冠の振る舞いに「苦痛」は浮かばない

 私自身は、「スポーツを楽しむ」ことこそが、人がもっとも育ち、学ぶことにつながるのではないかと考えています。

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