スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
W杯最多イエロー18枚乱発にメッシ「試合前から心配してたんだ」“嫌われた主審”の正体…なぜ“不思議と高い評価”を保っていたのか
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2022/12/24 11:09
オランダvsアルゼンチンのキックオフ前、ファンダイク、メッシとともに写真に収まるラオス主審
実際のところ、マテウの試合裁きが極端に悪かったわけではない。専門家の見解では10分のアディショナルタイムも妥当であり、パレデスの退場見逃しを除けば明らかな誤審はほとんどなかった。
それでも両陣営からこれだけ不満の声が上がったのは、少なくない選手たちが彼に抱いている印象の悪さが関係していたように思える。
新時代のレフェリーとして注目を集めていたワケ
トップリーグに昇格した当初、マテウは新時代のレフェリーとして注目を集めた。
試合の流れを維持することを重んじ、少しばかりの接触ではプレーを止めない。「プレミア流」と形容された彼のジャッジは、当時レアル・マドリーを率いていたジョゼ・モウリーニョに賞賛され、フィジカル重視でアグレッシブな守備を持ち味とする他のチームからも歓迎された。
よく喋るのもマテウの特徴だ。選手とのコミュニケーションを円滑にすべく、事前に仕入れた様々な情報を用いて試合の前後、時にプレー中でも他愛のない対話を楽しむ余裕を見せる。
こうした他のレフェリーとは一線を画すスタイルは、一部のファンやメディアに高く評価された半面、少なくないアンチも生み出した。
その原因は、一見すると一貫性がありそうな「プレミア流」のジャッジも、その正体は明確な基準がないただの我流、いわば「マテウ流」でしかなかった点にある。
フィジカルコンタクトに対する行き過ぎた許容から、吹くべきファウルまでスルーすることが多く、明らかなPKを見逃したことなど数知れない。被害を被るのは常にゲームの主導権を握るポゼッション型のチームだ。バルサのメッシがその筆頭だったことは言うまでもない。
「有名選手と馴れ馴れしく絡む姿は…」
当初は好感を得ていたフレンドリーな振る舞いも、今では否定的に捉えられることが増えた。
今季のカディス対ベティス戦では、セルヒオ・カナレスとの間でこんなやりとりがあった。後半アディショナルタイムのこと。カナレスが「もう1分追加すべきだ」と訴えかけると、マテウは「これ以上話し続けるなら退場させる」と返した。
これに対し、カナレスは次の言葉を発したことでプロキャリア初の退場処分を受けている。