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青木真也が語る「僕にしかできない終活」 39歳のベテランは、いかに格闘技を続けるのか?「主義主張を表に出すのは、命がけなんです」

posted2022/12/21 11:04

 
青木真也が語る「僕にしかできない終活」 39歳のベテランは、いかに格闘技を続けるのか?「主義主張を表に出すのは、命がけなんです」<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

来年40歳となる青木真也に、自身の“引退”についての考えなどを聞いた

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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Norihiro Hashimoto

青木真也は2023年でMMA歴20年を迎える。今年は3月の秋山成勲戦、11月のイザガクマエフ戦と連続でTKO負け。39歳の今、青木は“闘い”をどう捉えているのか。そして彼が考える“終活”とは――。《全2回のインタビュー2回目/前編からつづく

 現役を続けることが偉いわけではない、と青木真也は言う。

「むしろ、やめられるほうが偉いですよ」

 今年、ケガのため21歳で(無期限休養といった表現ではなく)引退を選んだ女子キックボクサー・寺山日葵の選択を、彼はことのほか高く評価していた。選手であることで得られる周りからの応援や特別な待遇、そして勝利の快感。そうしたものにきっぱり別れを告げるのは、そう簡単なことではないのだと言う。

今年は3連敗…それでも“引退”のつもりはなかった

 そこまでわかっていて、39歳の青木は現役続行を選んだ。11月19日、ONE Championshipのシンガポール大会。この10年、主戦場にしてきた団体で闘ったのはザイード・イザガクマエフ。結果は1ラウンドTKO負けだった。連勝中の新鋭がベテランを食う、いわゆる“世代交代”の一戦。青木は3月の秋山成勲戦に続いて連続TKO負け。グラップリングマッチを合わせると3連敗になる。冷たい言い方をすれば、青木は“やめ時”なのかもしれなかった。まして彼はこの試合に向けて「これ以上やれることはない」と言えるくらいの準備をしてきたのだ。

 それでも、一般的なイメージとしての“引退”をするつもりはなかった。

「キレイに選手をやめる、印象に残る引退試合、引退式をやるっていうのは、もう上位概念みたいなものがあるじゃないですか。“やりたいのは魔裟斗みたいな感じ? それともアントニオ猪木?”ってなる。僕は他の人がやってないこと、青木真也にしかできないことがやりたいので」

 試合をする前から、ファイターのキャリアの作り方に対する疑問のようなものもあった。

「今回、思ったのは“勝っても負けてもこのループは続くな。これをいつまでもやるわけにはいかないな”と。僕は前回、負けてるけどハードマッチが組まれた。もちろん勝ってもそうなる。このループを続けちゃうと自分が壊れちゃう」

「格闘技の資本主義」に青木が今思うこと

 ループとは、格闘技における“資本主義”が生み出す渦なのだと青木は見ている。たとえば、世界最大の団体UFCだ。大きな舞台には資本が集まる。お金のあるところには選手も集まる。そうしてレベルがどんどん上がる。若くて有能なファイターが現れてベテランの座を脅かし、新陳代謝が速くなる。勝負の世界、実力主義。どんなスポーツでも当然のことで、ONEもそうなっている。

「世代交代マッチみたいなのが増えてるでしょ。そこに巻き込まれたくないなっていう気持ちがあるんですよ。それって選手の消費が速いってことじゃないかと思って。僕は格闘技が好きだし、よく見てるしよく分かってるほうだと思うんです。格闘技に対しての尊敬、尊重もある。好きだから長く続けたい。だから、これからちょっと引きたいなと。引退するとかしないとかじゃなくて、格闘技との向き合い方を変えるっていう。そうしないともたないですよ」

【次ページ】 「イチローは“野球人”。僕も“格闘技者”でありたい」

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