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〈現役ドラフト〉「戦力外を受ける前に、もし移籍のチャンスがあれば…」 “飼い殺し”を防ぐ新制度実現に奔走した元ロッテ選手の思い
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byNumber Web
posted2022/12/09 11:02
「現役ドラフト」制度実現に奔走してきた日本プロ野球選手会事務局の肘井竜蔵さん
現役ドラフトの議論が始まったのは現役選手だった2018年ごろのこと。当初選手会が目指していたのは、出場登録日数など一定の基準以下の選手は自動的に全員が指名の対象となる制度だった。一軍に定着できていなかった肘井さんは、自分もその対象者に入るんだ、という目線で捉えていた。
「これは面白いな、と正直思っていました。球団に不満があったわけではないですが、移籍のチャンスがあるなら他の球団で勝負してみたいという思いはありました。二軍でいくら野球をやってもお金にならないですから。二軍が主戦場になっている選手なら9対1くらいの割合で“チャンスがあるなら移籍したい”と望んでいると思いますね」
現役時代、肘井さんはファームで環境さえ変われば一軍の舞台で十分活躍できるのではないか、と感じる選手を沢山見てきた。同じポジションでも、選手層の厚さはチームによって違う。優勝争いをしているのか、世代交代を目指しているのか、チーム事情によっても起用は変わる。何より勿体ないと感じたのは、監督やコーチの好き嫌いや先入観によって、はなからチャンスが与えられない選手がいたことだ。
「評価してくれる監督がいれば花開くのに、という選手を沢山見てきました。いわゆる“飼い殺し”です。日本の場合、戦力外になると途端に選手のバリューが下がってしまう感覚があるんですね。戦力外通告を受ける前に移籍のチャンスがあれば、救われる選手は多いんじゃないかと思う。メジャーリーグではルール5ドラフトや、マイナーFAなど、FAを取れない選手をカバーする制度がありますが、日本はFAを取るかトレードされるかなど、選択肢が圧倒的に少ない。ある監督がFA補強について聞かれて“年寄りはいらん”とおっしゃっているのを拝見しましたが、そもそもFAは中堅やベテランにならないと取れない制度なんですよ。市場に選手が出てこないのは、今のプロ野球界の一番の問題。現役ドラフトが新しい選択肢の1つになれば、という思いを持っています」
安定志向で“サラリーマン化”。今どきの選手気質
一方で肘井さんは、選手側にも意識改革の必要性を感じている。
「選手も少しサラリーマン化してきている部分があると思うんです。昔のプロ野球選手は少なからず弱肉強食という意識がはっきりしていた印象がありますが、制度が整えば整うほど安定志向というか“球団に雇ってもらっている”という感覚でモノが言えない選手も増えている。若い選手に将来に向けたビジョンを聞くと“今のまま何年かこのチームで過ごして裏方になれれば……”という言葉が出てくることもあります。球団の数が少ないのでしょうがない部分はありますが、もう少しプロ意識を持って、他のチームに移籍してでもレギュラーを獲って活躍してやる! という選手が増えないと様々な交渉をしていく上でも難しいのかな、とは感じています」
肘井さんにとって選手会の仕事をする上で最も大事にしているのは「なるべく多くの選手が納得感を持って野球人生を終えること」だ。
「ユニフォームを脱ぐ時に、あの時にチャンスをもらっていれば、とか、もし移籍していたら、などと後悔してほしくないんです。幸い、僕自身は5年と短かったけれど十二分に納得してユニフォームを脱ぐことができました。選手会として、過去の先輩方が交渉して勝ち取ってくれた制度を大切にしながらも、選手がああしておけば良かった、と後悔することがないようにサポートしていきたいと思っています」
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