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〈現役ドラフト〉「戦力外を受ける前に、もし移籍のチャンスがあれば…」 “飼い殺し”を防ぐ新制度実現に奔走した元ロッテ選手の思い
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byNumber Web
posted2022/12/09 11:02
「現役ドラフト」制度実現に奔走してきた日本プロ野球選手会事務局の肘井竜蔵さん
5年間のプロ野球生活では天国も地獄も味わった。育成選手から支配下登録、手術を伴う大きな怪我や、そこからの復帰も経験した。やり切った、との思いから肘井さんはすぐに現役引退を決断した。
「このチームで必要とされないのであれば、もう野球を辞めようと心は決まっていました。球団からはスタッフにならないか、という話もありました。ただ、“まだポストは決まっていない”と言われて……僕の中ではどんな仕事か分からないのに、“じゃあお願いします”というのは違うと思ったので、ありがたい話ですがその場でお断りしました」
履歴書53通。職歴は「千葉ロッテマリーンズ」
翌日からすぐに就職活動を始めた。当時はパソコンも使えず、ホームセンターで履歴書を大量に買い込んでは手書きして、53社に送ったという。
「職歴欄は“千葉ロッテマリーンズ”です。志望動機は書けば書くほど上手くなりましたね(笑)。僕は芸能界に興味があり、芸能マネージャーになりたかったので、履歴書を送った会社は芸能事務所が多かったです。反応があったのは25社くらい。試験や面接と進むなかで、自分が今まで世間のことにどれほど無知だったか、ということにも気づかされました」
12社から内定をもらったが、ちょうど同時期にプロ野球選手会の事務局からも職員の誘いがあり、最終的にそちらを選んだ。
「正直、現役時代には選手会がどんな活動をしているのかよく分かっていませんでしたが、同じ裏方をするなら自分がよく知っている野球選手たちをサポートしてみよう、と思ったんです。ただ、就職活動をしたことは本当に良かった。人生の中でも本当に濃い1カ月になりました」
入局した2019年当時、23歳だった肘井さんに特に期待されたのは、若い現役選手のサポート役としての存在だ。プロ野球選手会の活動といえば、一般的には古田敦也選手会長時代のストライキや、フリーエージェント(FA)制度をめぐる交渉といった印象が強いが、億の年俸を稼ぐスター選手以上に、明日の身も知れない若手選手はより切実な問題を抱えている。
「僕も現役時代はそうでしたが、若い選手は選手会が何をしているのかよく分かっていないし、球界のシステムに疑問があったとしてもただ必死にやるしかないんです。支配下登録は70人までで、一軍登録枠は29人。選手たちのほとんどはFA権を取るなんて果てしない夢です。僕が入局してから、一軍の最低年俸に当たる出場選手追加参稼報酬額が引き上げられたり(2020年から1430万円→1600万円)、少しずつでも変わってきているのは嬉しい。今回の現役ドラフトについても、ベテランや中堅のレギュラー選手たちも“FAより先にそっちでしょ”と動いてくれた。当然、弱肉強食の世界ではありますが、多くを救うためにまずそういう制度を作らないといけない、というのは選手会全体としても意識が変化してきたところなのかな、と感じています」