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「クロマティ見てる?」「守備はド素人だったのに…」巨人ウォーカー、運転手も工場バイトもやった苦労人がまるで“プロ野球の桜木花道”な話
posted2022/12/10 17:02
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph by
Sankei Shimbun
2022年秋、ひとりの外国人選手が、断固たる決意で秋季練習に参加したことが話題になった。
巨人のアダム・ウォーカーである。ペナントレース終了後も帰国せず、日本に残った背番号44は原監督からの提案を受け、精力的に秋季キャンプの一部日程にも参加。11月6日、侍ジャパンとの一戦では「5番左翼」で出場すると左中間スタンドへ勝ち越し3ランをかっ飛ばして、激動の1年を締めた。「不思議な光景だ……あの日本代表チーム相手に、ウチのウォーカーがホームランを打ってるよ……」なんて東京ドームに詰めかけた多くの巨人ファンは、開幕直後の背番号44を思い出していた。
メジャー経験のない31歳の元・独立リーガー。21年に米独立リーグで33本塁打のパワーに、24盗塁のスピードを併せ持つMVP男は、元アメフト選手の父譲りの身体能力の持ち主で、推定年俸3400万円ながらもダイヤの原石と獲得時から評判となった。今シーズンはドラフト1位のルーキークローザー大勢が爆発力と勝利への意志を、ウォーカーがこのチームにパワーとガッツを加えてくれるはず。そんな期待の新助っ人だったが、来日してすぐレフト守備でイージーミスを連発。実は守備面を指導されたことがほとんどなく、内野手への送球すらも満足に届かないという大きな弱点が露呈してしまう。
コーチされたことがない、つまり守備面はほぼ素人。そういう選手がペナントレースを戦う中で、恐ろしいスピードで成長してみせた。そう、まるで名作バスケット漫画『SLAM DUNK』の桜木花道のようにである。湘北高校のバスケ部で競技を始めたばかりの素人・桜木は、プレーは荒いものの持ち前の身体能力をベースに試合を重ねるごとにリバウンドやシュートの技術も身につけ、やがてチームの救世主へとなっていく。
亀井コーチも思わず「うるっとくるよ…」
桜木花道が赤木キャプテンからリバウンドのスクリーンアウトを叩き込まれ、安西監督と2万本のシュート練習に臨んだように、ウォーカーは亀井善行外野守備兼走塁コーチとマンツーマンで、イチから守備練習に取り組んだ。キャッチボールの基礎から始める地道な個人レッスンは、異例のブルペンでの投球によるフォーム矯正、電車で通うジャイアンツ球場での守備特訓へと繋がっていく。これらはプライドの高い元メジャーリーガーなら耐えきれない練習だったかもしれない。だが、独立リーグ時代のウォーカーは野球だけじゃ食うにも困り、運転手や工場アルバイトまで経験して食いつないだガッツの持ち主だった。「亀井コーチ、野球がしたいです」的なハングリー精神は、やがて結果へと繋がっていく。