プロ野球PRESSBACK NUMBER
〈現役ドラフト〉「戦力外を受ける前に、もし移籍のチャンスがあれば…」 “飼い殺し”を防ぐ新制度実現に奔走した元ロッテ選手の思い
posted2022/12/09 11:02
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
Number Web
第一歩を踏み出す「現役ドラフト」。選手会事務局に入局以来、実現に向けて奔走してきた肘井さんは、緊張感に満ち満ちていた。
「まずスタートした、ということは個人的に良かったと思っています。当初選手会として望んだ形が全て実現したわけではないし、色々な問題点はあります。でも今までの野球界は、制度の粗探しをしてなかなか新しいものが生まれないということも多かった。とりあえずやってみよう、となったのはよかったです」
非公開で行われる第1回の「現役ドラフト」では、各球団が2人以上の選手を出し合い、1人以上の選手を獲得するルールだ。様々な問題点は残るが、少なくとも12人の選手が他球団へ移籍することになり、球界に新たな風が吹く。
「野球界が良好に機能していくための仕組みなので、制度が出来ました、というだけではダメ。動き出してどう機能していくか、移籍する選手たちがどうなのかを見て、改めて良かったなと思うのか、これじゃダメだと思うのか……。まずは球団を信じて様子を見ていきたい。まだまだ、ここからですね」
肘井さんがロッテから“戦力外通告”を受けたのは2018年10月1日のことだ。育成選手から支配下登録を勝ち取って4年目、初めて一軍での出場なしに終わったシーズンを過ごすなか、すでに覚悟はできていた。
「オールスターが終わったあたりから、二軍での使われ方などから"今年は自分が切られる番だな"とは思っていました。過去に自由契約になった先輩も見てきたし、ほとんどの選手が分かるんですよ。ファームで最終戦となった試合(9月28日、西武戦)ではスタメンで、これが最後だなと思って打席に立ったのを覚えています。むちゃくちゃ打てたんですよ(笑)」
戦力外通告に「正直、ホッとしました」
9月30日の夜、寮に戻り晩御飯を食べた後、球団の編成担当者から電話を受けた。「明日朝、球団事務所に来てくれ」。予想通りだった。
「それを聞いて正直、ホッとしました。5年間のプロ野球生活のなかで、その日の夜が一番ぐっすり眠れたんじゃないかな。全て解放されたというか……。アスリートは皆同じかもしれませんが、24時間、365日、家族と遊んでいても彼女と会っていても絶えず頭の片隅に野球があって、寝る前に目をつぶったら不安になるんです。自由契約と言われた瞬間、それが一気に吹き飛びました。もう、野球のことを考えなくていいんだ、と」