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「アスリート生活は一種のドーピング(笑)」元バレー代表・福澤達哉が考えるセカンドキャリア論『できない』世界へ飛び込んだ時に大事なこと 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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photograph byYuki Suenaga

posted2022/11/18 17:00

「アスリート生活は一種のドーピング(笑)」元バレー代表・福澤達哉が考えるセカンドキャリア論『できない』世界へ飛び込んだ時に大事なこと<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

仕事終わりにインタビューに応じた福澤達哉さん。業務に追われる毎日だが、日本代表戦の解説などバレーボールに関する仕事も積極的にチャレンジしている

 福澤さんが扱うテーマはスポーツに限らず、自社の純水素型燃料電池を活用したRE100化ソリューションや、電動アシスト自転車など実に幅広い。単なる事業や商品の紹介ではなく、そこに関わる「人」に取材し、開発までの苦労やストーリーを聞き出すべく、さまざまな資料を読んで取材に臨む。聞く話は新鮮で、刺激を受ける一方、“取材者”としては失敗と反省の連続だと笑う。

「人によってスラスラ話す方もいれば、なかなか言葉が出てこない方もいる。それをどう引き出すかが自分の仕事とはいえ、自分も思い描くストーリーへ持っていきたいという気持ちがあって、無理やり引き出そうとしてしまうこともあります。この話もいいけれど、こっちに持って行きたい、と思ってグッと方向を変えて話題がブツッと途絶えてしまったり。流暢に20~30分近く話されて自分が付け入るスキがないこともありました(笑)」

 だが、そんな壁にぶつかりながらも元アスリートの“視点”を生かして笑顔で切り抜ける。

「実質的には社会人1年目の人間がわかったフリをしても、本当に欲しい話は聞き出せない。そこで自分の経験を交えて『スポーツの世界だとこうですね』と全く別の角度から共感することもあります。そうすると、相手も同じ内容を話していても視点が変わり、いいフレーズがポンポン出てくることがあるんです」

 かつて上司にこんなことを言われたことがある。

「君がやってきた10年間の経験も、1つの武器なんだよ」

 福澤さんと同じタイミングで入社した同世代の人間は、社会人として10年以上のキャリアを築いており、社会の中で揉まれてきた分、当然スキルも優れている。現役を引退し、本格的に社業に就いた福澤さんは、見方によっては“ゼロからのスタート”にも見える。だが、実はそうではない。入社を決めた時から思い描いた「パナソニックの社員」として、「バレーボール選手」というカテゴリーから新たな部署へ異動した。その時々ですべきことを考え、必死で取り組むことにアスリートもサラリーマンも変わりはない。

「だから私も、これまでやってきた経験を活かして『これをやってみたいです』と言えるものを、今は探している過程なんです」

「アスリート生活は一種の“ドーピング”(笑)」

 アスリート時代と異なるのは、「ゴール」を見つけることが容易ではない、ということぐらいか。

「元アスリートが言うべきたとえじゃないかもしれませんが、アスリートの生活って、いわば一種のドーピングみたいなものなんです(笑)。勝ち負けがあって、感情の浮き沈みがあって落ち込むこともあるけれど、またそこから這い上がる。日常業務であれほど感情を揺さぶられることはほとんどありませんからね。

 でも、自分が持っている10の力、経験をいかに12に見せられるか。それを考えて、実践するということは選手時代とさほど変わらない。今しかできないことを積み重ねる、という意味では同じです」

 社業のほかに、バレーボール中継の解説業にも積極的にチャレンジしている。1つ1つのプレーが生じた背景や狙いを選手の心情で語る解説は好評だが、唯一、反省点を挙げるなら「しゃべりすぎること」と笑う。

「あれもこれも伝えたい、と思うと、結果しゃべりすぎるんですよ。今日もそう。脱線しまくって、結局1時間14分。あーこれ、書き起こしが大変ですね(笑)」

 スーツ姿にリュックを背負い、オフィス街を颯爽と歩く。コートで見せた凛々しい姿とはまた違う新たな日々も上々だ。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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