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石川祐希は“あの激闘フランス戦”で何を感じたのか?「もちろん狙いました」「この先は、強い人間だけが残っていくと思います」
posted2022/09/20 11:00
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
FIVB
勝つなら、ここしかない。石川祐希は確信していた。
9月5日、男子バレー世界選手権(ポーランド・スロベニア)。ベスト8進出をかけたフランス戦の第5セット、日本が15対14とマッチポイントを手にした場面で、石川がサーブを打つべくエンドラインへ向かう。
冷静に。そう心がけながらも、当然ながら気持ちは昂る。
「(サービス)エースか、グッドサーブで相手を崩す。そのイメージしかありませんでした。もちろん狙いに行きましたし、得意なコースに、思いっきり打ちました」
この試合を制すれば目標と掲げたベスト8が決まるだけでなく、東京五輪金メダルの強豪フランスを下す大金星だ。石川だけでなく、コートに立つ選手やベンチの選手、スタッフ、そして早朝の情報番組が急遽切り替えた生中継を観る日本のファン誰もが、おそらく同じことを考えた。
石川ならきっとやってくれる。ここで決めてくれるはずだ、と。
「ちょっとタイミングが遅くなったんです」
石川の頭にはミスを恐れた“安全策”という選択肢はない。高く上げたトスに、十分な助走から床を蹴って跳び、落下してきたボールをまっすぐに伸ばした腕よりも、もう1つ、高い位置でとらえる。イメージは完璧で、トスも悪くない。行ける、という手ごたえがあった。
1つだけ違ったのは、気づかぬうちに生じた力みが石川のタイミングをわずかに狂わせたこと。
「狙いに行く、と力が入った分、ちょっとタイミングが遅くなったんです。自分の中では、落ちてくるボールを待って打つのではなく、高いところにあるボールを自分から打ちに行くのが理想です。でも、あの時は一瞬遅かった。打った瞬間に『ネットだ』と思った。狙いに行こうとしすぎたのか、考えすぎたのかはわかりません。でも、力んだのは事実でした」
ボールはネットにかかり、15対15。その直後、石川は抑えることも隠すこともなく、感情を露わに叫んだ。何と言葉にしたのかは覚えていない。
ただ、悔しさを爆発させたあと、一瞬笑った。
「それまでずっと耐えて、耐えて、やっとデュースに持ち込んだ。そこで、ミスをしないフランスが、しかもガペ(フランス代表のエース、イアルバン・ヌガペト)がフェイントをネットにかけて、こっちのマッチポイントになった。誰もが“よっしゃ、行ける”と思った場面で自分にサーブ順が来て、ミスをしてしまった。そこに対する怒りというか、呆れるじゃないですけど。マジかよ、みたいな感じで。サーブのミスは完全に自分の責任で僕の問題。『これは俺の1点だ』と。勝敗を分けた1点があるとしたら、間違いなく、僕のあのサーブでした」