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「決してガードを下げてはいけない」ラグビー日本代表はオールブラックスに付け込む隙はある? ジェイミー・ジョセフが語る“4年ぶりの決戦”
posted2022/10/28 06:01
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Nanae Suzuki
10月29日のニュージーランド代表との一戦を前に、Sports Graphic Number1061号(2022年10月20日発売)に掲載したラグビー日本代表ジェイミー・ジョセフHCのインタビューを全文公開します。
桜と黒衣。
10月29日、国立競技場で日本代表とニュージーランド代表、オールブラックスが激突する。過去の対戦成績は、日本の6戦全敗。それでも今回は、濃密な80分の展開が期待される。
日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフは、オールブラックスで20キャップを獲得したFW第3列。1995年のワールドカップに参加し、南アフリカとの決勝戦に駒を進め、そこで敗れた。のちにクリント・イーストウッドが『インビクタス』で映画化した伝説の大会である。
「あの大会は、すごく思い出深いものです。私自身は内転筋のケガをして、毎日、毎日注射を打っていました。自分のポジションを失うのが怖くて、痛みを抱えながらも手術を先延ばしにしていたんです」
実は、その決勝戦を前に、多くのオールブラックスの選手が食中毒に見舞われていたという。
「いまでもよく覚えています。木曜の夜、みんなで映画を見に行きました。すると、映画の途中だというのに、ひとり、またひとりと選手たちが席を立っていく。何が起きているんだ? と思いました。私自身は大丈夫でしたが、ホテルに戻ると、食中毒の症状が出ている選手たちは隔離されていたんです。土曜までに完全に回復というわけにはいかず、決勝は残念な結果に終わりました。しかし、フィットネス、スキル、すべてにわたって誇るべきチームでした」
「とんでもない負けず嫌い集団」
オールブラックス時代のことを振り返ると、選手同士の衝突から生まれたエネルギーの強さが忘れられないと語る。
「とんでもない負けず嫌いの集団でした。『オールブラックになりたい』ではなく、なれるものだと思ってきた人たちです。競争を乗り越え、絶対に勝ちたい人間しか残れない。いまはどうか知りませんが、昔は、練習中のケンカは当たり前。でも、そこで生まれたエネルギーは、とてつもなく大きいものでした。ちなみに、日本代表を預かってもう6年ほど経ちましたが、練習中のケンカは一度も見たことがありません。これはひとえに、育ってきた環境と時代の違いによるものでしょうが」
両者が同じ方法論で同じ目的を達成しようとすれば、どうしても衝突は避けられないというのがジェイミーの考えだ。なるほど、彼の生き方に教室ではなく、街場で培ってきた匂いがするのは、「ストリートスマート」として生き抜いてきたからだろう。
そのジェイミーが推進しているのが、「ルーツを知ることがチームを一体化させる」ということだ。