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中村俊輔が示し続けた「サッカーは技術と頭脳のゲーム」 横浜F・マリノス時代の“忘れられない90分間”「時代の流れに抗うかのように…」
posted2022/10/28 06:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
Takuya Sugiyama
Jリーグ開幕から30年、中村俊輔ほど話題になった選手はいない。三浦カズ、中田英寿、本田圭佑と並ぶ、日本の国民的サッカー選手といってもいいと思う。
サッカーファンに限らず、幅広い世代の人が中村の思い出を語ることができるはずだ。
それは桐光学園時代の冬の高校選手権かもしれないし、横浜マリノスでのセンセーショナルなデビューシーズンかもしれない。チャンピオンズリーグでマンチェスター・ユナイテッドの牙城を2度打ち破った、セルティック時代のフリーキックも鮮烈。豪快なミドルを突き刺し、ベストメンバーの世界王者ブラジルを追いつめた2005年のコンフェデレーションズカップも外せない。そしてフィリップ・トルシエとの確執も。
筆者はワールドカップやアジアカップ、イタリアやスコットランド、スペインなど、さまざまな舞台で彼のプレーを見てきたが、迷うことなくマイベスト俊輔を挙げることができる。意外に思われる人もいるかもしれないが、横浜F・マリノス時代の2013年シーズンのパフォーマンスだ。
このシーズン、筆者は頻繁に横浜のゲームに足を運んだ。それは彼らが最終節まで優勝を争っていたこともあるが、なにより30代なかばを迎えた中村の円熟のプレーに魅了されたからだ。
筆者が忘れられない90分間
横浜が開幕6連勝を飾った、日産スタジアムでの川崎フロンターレ戦がいまでも忘れられない。それはひとりの選手がここまでゲームを支配することができるのか、と唸らされた90分だった。
横浜のパスは多くが右サイドに構える中村に渡り、そのたびに彼はタッチラインを背にして、身体を開くような形で刻むようなタッチで縦へ縦へとボールを運んでいく。
対峙する敵は、うかつに飛び込むことはできない。というのも守備者は、失点に直結するルートを第一に遮断しなければいけないからだ。縦を切ろうとすると、すかさず中央に入られて左足を振り抜かれてしまうだろう。次の瞬間、鋭いピンポイントクロスやミドルがゴールを襲うのだ。こうなると縦への攻め上がりには、多少は目をつぶるしかない。
そこに俊輔の狙いがある。シュートやクロスをちらつかせながら縦に持ち上がり、ゴールラインが近づくと器用に敵に当ててコーナーキックを獲得するのだ。