「あの時、俊輔はいい指導者になると思った」桐光学園の恩師が明かす、高3中村俊輔が“体育の授業”で放った輝き「バスケもうまくてね」

　10月中旬に差し掛かった頃、新潟医療福祉大サッカー部を率いる佐熊裕和監督の携帯電話が鳴った。

「着信があって、忙しくて気づかなかったけど、それを見た時にもしかして……という予感はありました」

　その翌日に、折り返しの電話をすると、最初に電話をくれた主は「先生、俺、引退することにしました」と告げた。

　日本サッカー界が誇るレフティー、中村俊輔が現役引退を発表した。佐熊の指導者人生を大きく変えた教え子は、電話口で恩師にその決断を伝えた。

「正直、お疲れ様という言葉しか浮かばないし、育成年代にずっと携わらせてもらっている中で、本当に最高の選手だった。サッカーだけではなく、人間性を含めてトップ・オブ・トップの素晴らしい選手。巡り会えたことは感謝以外、何物でもありません」

10月23日、現役ラストマッチとなった熊本戦にスタメン出場した中村俊輔。試合後には「やり尽くした感じで良かったです。また宜しくお願いします！」と佐熊にメッセージを送った　©︎JIJI PRESS

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「もう1人、選手が参加するけど大丈夫でしょうか？」

　中村が高校3年間を過ごした桐光学園高サッカー部の監督を務めていた佐熊は、弱小だったチームを全国屈指の強豪校に育て上げたことで知られる名将だ。

　2人の出会いは、監督就任8年目の1993年のことだった。

　当時、横浜マリノスジュニアユースにいたDF佐原秀樹の獲得に向けて熱心だった佐熊は練習参加を実現させるべく奔走していた。そこに、マリノス関係者から連絡が入った。

「もう1人、選手が参加するけど大丈夫でしょうか？」

　何気なしに「いいですよ」と即答したが、佐原と一緒にやってきたのは、小さくて細い少年だった。だが、ユース昇格を逃して失意に暮れる華奢な少年は佐熊に驚きを与える。

「とにかくね、ワンタッチ目と逆を取るプレーが非常にうまかった」

　2、3人の相手DFにプレッシャーをかけられてもキュキュッと左足でボールをずらしてプレス回避。すぐさま逆サイドのスペースに走り込む選手に、ツーステップでサイドチェンジを送る。当時は左足のキック力がまだ足りず、ボールは失速してしまったが、もしそのパスが通っていれば、確実にゴールが生まれていた。可能性を感じる高度なパスだった。

　キックまでの動作の速さ、テクニック……何よりここしかないというタイミングで出したパス。「それを味方が見えていた上でやっていたのなら凄い」と感じた佐熊は、すぐに中村に確認した。すると、「見えています。見えていたので出しました」とハッキリと答えた。この言葉で佐熊は中村の獲得を即決する。

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