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《独占インタビュー》大迫傑31歳に問う! プロランナーなのに、なぜニューイヤー駅伝を走る?「勝つためだけでは僕の色は出せない」
 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byShota Matsumoto

posted2022/10/08 11:02

《独占インタビュー》大迫傑31歳に問う! プロランナーなのに、なぜニューイヤー駅伝を走る?「勝つためだけでは僕の色は出せない」<Number Web> photograph by Shota Matsumoto

プロランナーとしてGMOインターネットグループに「参画」し、ニューイヤー駅伝を走ることを表明した大迫傑。その真意とは?

「企業に入るとか、あるいはどちらかが依存するという関係性ではなく、パートナーシップを結んで、僕としてはGMOに対して必要なスキル、走力を提供し、育成にも関わらせていただくという形になると思います」

 つまりは企業に所属するということではなく、大迫傑という個人が技術を提供すると捉えた方がいいだろう。

 私の友人が「フェラーリがどうしてもコンストラクターのタイトルが欲しくて、全盛期のミハエル・シューマッハーとスポット契約する感じかな」と話していたのが、分かりやすい例えかもしれない。つまり、大迫は「優勝請負人」という立場を期待されている。

僕のチャレンジによって次の選択肢を示したい

 しかし、それ以上の価値を出していかなければ、契約する意味はないと大迫は語る。

「日本の陸上界と世界を比較すると、日本の実業団システムの素晴らしいところは、長距離選手の雇用が多く、裾野が広いところです。ただし、そこから先の発展形を示すのが難しいですよね。世界と勝負していくのか、それとも可能な限り、選手としてその企業のなかで長く走っていくのか。次のステップが見えにくいところがあるので、今回の僕のチャレンジによって次の選択肢があることを示したいと考えてます」

 今回、大迫は選手としては1年間の単年契約を結び、走るのはニューイヤー駅伝一本。ただし、「育成には時間が必要」ということで、ダイレクターとしては複数年を視野に入れて、チームを強化していくことを考えているという。

 短期的な視点でみれば、GMOインターネットグループとしては、ニューイヤー駅伝のみのために大迫に投資したことになる。

ランナーの”単価”を上げるために…

 駅伝一本のために招かれた選手は、過去に例がないはずだ。そこでもランナーとしての価値を表現したいというのが大迫の考えだ。

「僕がGMOに参画することで、ランナーの"単価"が上がることにつながって欲しいなと思っています。さらにニューイヤー駅伝や、日本の陸上にとってプラスの要素につながればいいな、と。いま、日本国内では"駅伝"という漢字表記になっていますが、アメリカでは"EKIDEN"という言葉が定着しつつありますし、もっと国際化できる可能性もあると思うので」

 単価が上がるためには、業界全体として資金が豊富に投下されなければならない。ニューイヤー駅伝の価値が上がれば、それにともなって資金も豊富に流れ込んでくるだろう。競争が激しくなれば、よりよい練習環境を選手が求める前向きな移籍も増え、結果として選手の単価も上がっていくことが期待される(一方で、撤退する企業が現れて実業団の門戸を狭くするかもしれない)。

 それは日本に限った話ではなくなるかもしれない。東京オリンピックのマラソンで入賞した大迫がEKIDENを走るとなれば、将来的に海外のビッグネームがニューイヤー駅伝のためにやってくる可能性もある。メディアもドメスティックな視点になりがちだが、本気で優勝したい企業が増えてくれば、海外の有力選手を「この一本」のために呼ぶという選択肢も出てくるかもしれない。

 この契約は、少なくともそうした可能性を見せたことになる。

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