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プロ野球PRESSBACK NUMBER
消えたオマリーのパンツを探せ! 大杉勝男、古田敦也、バレンティン……“伝説の用具担当”が語る歴代スワローズ選手たちの愉快なこだわり秘話
posted2022/10/11 11:02
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
SANKEI SHIMBUN
「用具担当」の仕事は実に多種多様だ。バットやボール、グラブ、ユニフォームといったプレーにまつわる道具の管理のみならず、ネットやピッチングマシン、トレーニング用品など練習に関わる大きな用具の手配や準備も仕事の一つ。チームが遠征に出るとなれば、それらの用具と遠征用品を詰め込んだ各選手のスーツケースをトラックに積み込み、以前は自らハンドルを握り関東近郊を往復することもあった。言うなれば“何でも屋”。細やかな気配りが不可欠な仕事で、寺井さんは歴代のツバメ戦士に頼りにされてきた。
「明日までに1cm……」大杉勝男の精密なこだわり
用具にまつわるやり取りで、記憶に残っている選手がいる。寺井さんがまず名前を挙げたのは、1975年から83年までヤクルトに在籍した大杉勝男だ。19年のプロ生活で通算486本塁打を放ち、史上初の両リーグ1000安打を達成した強打者は、誰よりも道具を大切にした。特にバットへのこだわりは強く、常に自ら手入れし、重さや長さなどが異なるさまざまな種類を使い分けていたという。
「ある日“37インチのバットを使いたい”と言い出したんです。37インチと言えば94cmほど。プロ野球選手が使う標準のバットが33半(約84cm)や34インチ(約86cm)ですから、そんな人はいない。重さも950gほどあったと思いますよ。メーカーの担当者が特別に作って渡すと、“おう、早速使ってみるわ”とその日の第1打席でいきなり特大ホームラン。ところが2打席目になると“重くて疲れるからこれは使えない”と違うバットを使って、以降はお蔵入りにしてしまったんです。たったひと振りだけして、しかもホームランを打ったのに。道具に対する感覚やこだわりが凄いんだな、と驚きました。もう一つ、大杉さんに言えなかったこともあるのですが……」
ある日、大杉から「明日までに俺のユニフォームの上着を全体的に1cmずつ生地を出して大きくしてくれ」と無理難題を受けた。当時のユニフォームといえば伸縮性の少ないニット素材でチーム名のロゴもプリントではなく刺繍。出せるだけの縫い代も全くなかった。