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「普通じゃないですか」「分かんないっす」「抑えればラッキー」…広島の新セットアッパー・矢崎拓也の“投げる哲学者”語録
posted2022/09/12 11:01
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PHOTO
ふてぶてしさが、頼もしく映る。クライマックスシリーズ争いに加わる広島で、新セットアッパーがチームに安定感をもたらしている。昨季からの課題だった守護神栗林良吏につなぐ8回のマウンドには、怒ったような、困ったような表情の背番号41、矢崎拓也が上がる。
慶大からドラフト1位で入団して1年目の2017年、プロ初登板初先発で9回1死まで無安打無失点投球というド派手なデビューを飾った。あれから5年……ファンが描いたであろう成長曲線を辿ることはできなかった。昨年まで一軍と二軍の行ったり来たりを繰り返し、一軍で登板したとしてもその数はひと桁のシーズンが続いた。
だが6年目の今年はプロ入り初の開幕一軍入りを果たし、昨季までの通算登板数22試合を大きく上回る41試合に登板している。ロングリリーフの立場から結果を残し、夏場には勝ちパターン入り。8月12日の巨人戦からセットアッパーを任されると、16日に新型コロナウイルス感染で離脱しても、復帰登板となった28日でも8回を託された。9月10日現在、防御率1.64という安定ぶりだ。
もともと持ち味だった荒々しい投球の精度が上がった。投球時、意識するのは左腕にブレーキかけて固めることだけ。あとは捕手のミットめがけて、右腕を振る。課題といわれた変化球の精度が上がり、制球はやや荒れる面があってもばらつきは減った。感情を表に出さないマウンドでの立ち居振る舞いも、結果を残すことで受け入れられてきた。
飛躍のシーズンに誓ったこと
「出たとこ勝負」
矢崎は、そう自分に言い続けている。〈結果を運に任せる〉という意味ではない。「出たところで頑張る」という意味だ。
「抵抗感をなくそうと、今年の最初から決めていた。何でもそうだと思いますけど、ずっと同じ環境にいると、どんな環境でもちょっとした安心感、慣れができる。頭で思うことが感情となるので、すべてのことをイエス、イエスと、抵抗せずに受け入れている」
まるで“投げる哲学者”のようなコメントだ。