炎の一筆入魂BACK NUMBER
「普通じゃないですか」「分かんないっす」「抑えればラッキー」…広島の新セットアッパー・矢崎拓也の“投げる哲学者”語録
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PHOTO
posted2022/09/12 11:01
去年までの4シーズンで、22登板1勝3敗の成績しか残していなかった矢崎。今シーズンを飛躍のきっかけとできるか?
実際には真面目な性格で、社交辞令が苦手なだけ。それでいて思考力が高い。その場に合わせた言葉を口にするのではなく、しっかりと自分の考えを言語化する。だから、相手の意図をしっかりと汲み取り、自分の考えを言葉に落とし込むまでに“間”が生じることもある。
抽象的な問いかけでは「分かんないっす」と返され、「僕のことはいいですよ」と言われたりもする。プロ野球選手らしくは、ない。話す内容が哲学的過ぎて、筆者は何度か聞き直して確認したこともある。探れば探るほど、矢崎ワールドに引き込まれる。
先発、中継ぎと役割が変わる中でも「事実は変わらないけど、受け止め方は自分で決められるので、ポジティブに捉えている」と仕事をこなす。
20年オフに背番号が13から41に変わったときも「世間から見るとネガティブに映るかもしれないですけど、何か変化があるときは自分にいいことが起きるきっかけかもしれない」と捉えていた。
失敗を学びに変えるポジティブ思考
コロナによる離脱を除けば、今季は初めてシーズンを通して一軍で投げ続けている。チームもCS出場に可能性を残す。ただ、ほかの選手のように「チームがCSに行けるように」「目の前の試合を取れるように」といった聞き覚えのある言葉は、矢崎から出てくるはずもない。
「安定していると言われても、よく分からないです。20球投げて18球納得のいく球を投げても、2球甘くなって打たれたら、結果的には悪い。結果はもちろん出たほうがいい。でも、失敗してもいいというくらいに思っている。失敗しても、そこで学べる。抑えればラッキー、マウンドに上がれるだけでもハッピー、というくらいに」
哲学的思考を持つプロ野球選手がいてもいい。そんな得がたい個性が、ときに一般社会にも通用する“気づき”を与えてくれるから面白い。
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