炎の一筆入魂BACK NUMBER
「普通じゃないですか」「分かんないっす」「抑えればラッキー」…広島の新セットアッパー・矢崎拓也の“投げる哲学者”語録
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PHOTO
posted2022/09/12 11:01
去年までの4シーズンで、22登板1勝3敗の成績しか残していなかった矢崎。今シーズンを飛躍のきっかけとできるか?
まだ字を読めない3歳のときに本を与えられ、6歳になると理解するようにと教えられた。プロ入り前に学んだ慶大には慶應高から内部進学で入学。今でも実用書を中心にひと月5冊は読書するという。
内向的で、無愛想。どこか、近づき難い雰囲気がある。だから、誤解されることもある。
コーチからの助言に、険しい表情になることもある。不満なわけではなく、言葉の意図を解釈しながら自分に合う感覚ややり方に変換しようとしているからだ。ただ、印象は良くない。損な性格なのだ。
そんな矢崎ワールドは、広島入団時から全開だった。
真摯ゆえの誤解
「ブルペンの点数? 基準が分からないので、普通じゃないですか」
「(ブルペンで監督が見ているのは)知らなかったです。いてもいなくてもやることは変わらないので、気にしても仕方ない」
「ケガしたらオーバーペース、ケガしなかったらオーバーペースじゃないということじゃないですか。結果論じゃないですか」
「(開幕ローテ入りへの意識は)ないです。入ることが目標というか、ローテに入りたいから頑張ってきたわけではないですし、ローテに入るために試合で0点に抑えたいわけでもない。野球をやっている以上、0点に抑えたいと思ってマウンドに上がっているので、そういう目標は立ててない。結果的にそうなれば、自分としていいことなのは間違いない。そういうふうには見ていますが、それのために頑張っているわけではないです」
改めてメモをざっと見直しただけでも、1年目の春季キャンプを送る新人選手とは思えないコメントが残っている。
同年3月のオープン戦登板後のインタビューはネットを中心に世間をざわつかせた。インタビューでの「〇〇の感想は?」という問いに、「感想?」と首をひねりながらぶっきらぼうな返答を繰り返した。テレビ中継されていたこともあり、「新人らしくない」と話題になった。