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宮城の農業高校で“野球部員10倍増”のナゼ…35歳の熱血監督を変えた“ある事件”「部室から練習道具が消えて夜逃げされたみたいな…」 

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樫本ゆき

樫本ゆきYuki Kashimoto

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posted2022/08/29 11:00

宮城の農業高校で“野球部員10倍増”のナゼ…35歳の熱血監督を変えた“ある事件”「部室から練習道具が消えて夜逃げされたみたいな…」<Number Web> photograph by Number Web

練習後にアイスで一息つく加美農業の選手たち

 彼の名を初めて知ったのは7年前になる。東北地区の指導者100名あまりが集まる「熱男の会」というグループがあり、酒を酌み交わしながら日ごろの苦労話を共有したり、甲子園出場への夢を語ったりして、活力を蓄えているという話を聞いた。その飲み会に参加した際、「アイツの情熱は凄い」と誰もが認めるリーダーが佐伯監督だった。部員2名で東北高校に練習試合を申し込んだりする、怖いもの知らずの熱血漢。試合に負けた「撃沈」ぶりは、熱男の会の最高のネタになる。それでも本人は底抜けに明るい。

 日本高野連が若手指導者育成のために開催している「甲子園塾」に参加した縁で元星稜監督の山下智茂氏や元履正社監督の岡田龍生氏(現・東洋大姫路監督)、松山商・大野康哉監督とも親交が深まった。ベテラン監督から「いつ練習試合に来るんだ?」と電話が来ると「コロナがなかったら明日にでも大型バスで行きたいっス!」と噓偽りなく返事をする。それが佐伯友也という男である。

生徒数は定員割れ、部員2人からスタート

 加美農という学校を紹介する。無名監督と無名校の記事を書いているのでどうしても文字数を要する点はお許しいただきたい。

 加美郡色麻(しかま)町に1900年に創立。校地面積81万3457㎡は「東京ドーム約17個分」もあり、端から端まで歩くと1時間以上かかる。高校の敷地面積では「本州一」。北海道・帯広農に次ぐそうだ。日本の子ども人口が多かった1964年には、文部省から農業の自営者を養成するパイロットスクールに指定された。創立120年超えの伝統校。コンビニまでは車で10分。周辺に駅がないため、生徒の約半数は「耕心寮」という学生寮で生活をしている。根岸一成校長は「寮教育」と呼び、社会に出るための人間形成を行う場であると力説する。

「中学時代やんちゃだった子は人への思いやりや助け合う心が芽生え、不登校だった子は規則正しい生活リズムが身につく。寮行事を企画したり、スマホの使い方を皆で話し合って決めるなど、ルールを守る責任感や、自分のことを自分でやる力がつきます」(根岸校長)

 こんな校風を野球部とリンクさせて生徒募集に燃えているのが佐伯監督だ。なにしろ定員割れが深刻。根岸校長によれば、全校生徒が161人。充足率は50%を切っている。佐伯監督が加美農に赴任した5年前は、野球部も弱り切っていた。伝統をつなごうと踏ん張っていた2人の部員と、生い茂る雑草を農工具で除草し、石を拾い、フェンスを修繕するところから再建。その年の夏は伊具との連合チームで出場し、石巻工に0-7の7回コールドで敗れた。

「あの時はクジ運が良く楽天の本拠地、Koboパーク宮城(現・楽天生命パーク宮城)で試合ができたんです。いい景色を見せてあげることができました」(佐伯監督)

 奮闘の様子が雑誌や新聞にちょくちょく取り上げられるようになった。

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