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宮城の農業高校で“野球部員10倍増”のナゼ…35歳の熱血監督を変えた“ある事件”「部室から練習道具が消えて夜逃げされたみたいな…」

posted2022/08/29 11:00

 
宮城の農業高校で“野球部員10倍増”のナゼ…35歳の熱血監督を変えた“ある事件”「部室から練習道具が消えて夜逃げされたみたいな…」<Number Web> photograph by Number Web

練習後にアイスで一息つく加美農業の選手たち

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樫本ゆき

樫本ゆきYuki Kahimoto

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東北勢初の甲子園優勝を果たした仙台育英と同じ宮城に、注目を集める若手監督がいる。5年前に2人だった部員は、今夏20人にまで増え、連合チームではない“単独”で宮城大会に出場。その部員の多くが高校から野球をはじめた球児たちだ。「野球で人生は変えられる」と確信する、農業高校の熱血監督を取材した。(全2回の前編/後編へ)

 ◆◆◆

 仙台育英が東北勢初の快挙を成し遂げた、およそ1カ月前。

 7月下旬の土曜日に、私は仙台育英と同じ宮城にある農業高校に向かっていた。かつて部員2人の野球部を指導した監督が、部員激増に成功しているという噂を聞いたからだ。

 編集者が運転するレンタカーに乗って仙台から北西へ約1時間。一面に緑が拡がる田園地帯に、県立加美(かみ)農業高校はある。

「遠くからようこそおいでくださいました。今日は大阪桐蔭の(地方大会)決勝ではなくこちらに? 愛工大名電も決勝をやっているというのに? それはまぁ……。Numberさん、見る目ありますねぇ」

 少しとぼけた顔で冷えたお茶を出してくれたのが加美農の監督、佐伯友也教諭(35歳)だ。同校に来て6年目。体育教諭室のソファーに「でんっ」と座っているが、体育教諭ではない。農業科の教諭だ。ニヤニヤと笑って取材の様子を見ている周りの体育教諭たちに視線を移し「この先生はかつてハンドボールの名選手で、今指導者としてがんばってます」と一人ひとり紹介しながら、場の空気を和ませる。

 佐伯友也。人を引き付ける力は凄まじい。でも(正直)少し、怪しい。高校野球界では無名校ゆえ記事は“ヒット”せずとも、面白い取材になりそうだなと直感した。

周囲の声「アイツの情熱は凄い」

 佐伯監督の生い立ちを紹介する。

 仙台市の隣、名取市の生まれ。小4で野球を始め、仙台東部シニアでジャイアンツカップを含む全国大会に6回出場。高校は部員が100人以上いた伝統校、宮城県農業高に進学し、3年夏は県大会ベスト4。「本気の野球」を高校で終え、大学は農業科の教職を取るため北海道・酪農学園大に進む。準硬式野球部で「楽しむ野球」を堪能したあと、宮城に戻り教諭に。部員2人の伊具高からスタートし、4年目で県32強入り。2017年4月に加美農に赴任、19年から監督を務める。……とまぁ、経歴を見れば普通の公立高校の野球部監督。それが佐伯友也という男である。

【次ページ】 生徒数は定員割れ、部員2人からスタート

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佐伯友也

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