「初心者だったので、最初は目にボールが当たって痛くて大変でした。ボールもバットに全然当たらなかったんですけど、コーチのお陰でヒットを打てたり、送りバントが決められるようになりました。大学でも野球をやろうかなって思い始めています」

部員の本音トーク「話を盛りすぎなんだよな！」

　新チームの主将に決まった大場龍之助（2年）は中学野球部出身。「高校でバスケ部に入ろうと思っていたら、佐伯先生に『野球やってたの？』って見つかっちゃって（苦笑）。進路面でも野球部がいいぞって説得されて……」と渋い顔で笑う。それでも「練習試合で1度だけホームランを打ったことがあるんですけど、無心だったので感覚を覚えてないんです。また打ちたい」とうれしそう。親からは「自分の好きなことを頑張りなさい」と背中を押され、寮生活と野球の両方を頑張っているそうだ。

　4番を打つ千石秀寿（1年）は「野球、楽しいっすね！」と友達のような口調で話してきた。

「自分は甲子園を目指すというより、楽しくやりたかったのでこの野球部がいいです。寮ですか？　スマホの使用時間は決められていますが、すぐ慣れました。夜は友達と話しているとすぐ時間が経っちゃう。インターネットも見ないのでどこが強いとか興味がないですね」

　恬然とした様子が愛らしく思えた。

　10分もすると取材に飽きてきた様子だったので選手全員に「佐伯先生にだまされたと思ってる人？」と聞いた。すると、全員がすぐに「ハイ！」と勢いよく手を挙げ反応した。そこからの本音トークが面白い。

「話を盛りすぎなんだよな！」
「休みがあるって聞いたのに全然ちがうし」
「絶対試合に出してやるって言われたのに、俺オールベンチだぜ」
「オマエ、そんなに出たいの？」
「出たい！　出たい！　野球やるために俺、生まれてきたんだから！」
「次、ベンチ外されたら、ガチで辞めるわ！」

本音トークに爆笑する加美農業の選手たち

　隅でスマホをいじって無関心そうだった選手まで話に入ってきて大笑いした。放課後の部室のような光景――。選手たちの“内緒話”をそのまま佐伯監督に伝えると「勧誘する時は話を120％盛りますよ」と大笑いしたのち、真顔になってこう続けた。

「長くて2年4カ月。高校野球は時間が短い。アイツらには可能性がいっぱいつまっているんです。だまされたと言われようが、アイツらが良くなるためならこっちも、どんどん仕掛けていきます。野球で人生は変えられるんで」

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