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「アンタは天才だから」巨人“育成の星”松原聖弥は、後半戦のキーマンになれるか? 原監督・亀井コーチも認める天性の打撃センス「オレはちょっと焦らしてるの…」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2022/07/29 17:00
亀井コーチから”天才”と称され背番号9を受け継いだ松原聖弥。巨人の後半戦上昇のキーマンとなれるか
「オレはちょっと焦らしているの、アイツを」
「彼がこれからレギュラーをしっかり獲っていくためには、あれだけボール球を振っていたらダメだよね。だからさ……オレはちょっと焦らしているの、アイツを」
そして原監督はオープン戦の序盤で、松原をあまり積極的に先発メンバーでは使わなかった。もちろん他の若手に経験を積ませる狙いもあったのだが、同時に指揮官の頭にあったのは、なかなか打席に立たせないことで、松原に1打席の重みを感じさせることだったのである。
オープン戦で当たり前のようにレギュラー候補として打席に立つのではなく、代打で1度の打席に立つことで、その打席の重みを意識させたかった。
松原の積極性は、同時に弱点でもある?
あえてそんなことをした背景には、松原のいいところでもあり、背中合わせの欠点でもある早打ちがあった。
松原の打者としての特性はその積極性にある。
初球から臆せずバットを振れる。
昨季の初球打率は3割4分。1ストライクからの2球目は4割2分5厘、1ボール1ストライクからの3球目は4割5分2厘と早いカウントで甘い球を逃さず、結果に結びつけてきた。アッといわせる意外性を発揮したのも、その積極的な打撃スタイルにあった。
ただ同時にそれが松原の弱点でもある。
打ちたい気持ちが逸るあまりに、ボール球に手を出すケースが多いのだ。
「頭使っていけよ!」
亀井コーチが送った叱咤激励のあの言葉が思い出された。何でもかんでも振りにいくのではなく、もっと狙い球を絞って、相手の配球を読んでスイングをしろ。
まだ相手が自分のバッティングスタイルを分析しきれていないときには、初球からストライクを狙った球が甘く入れば、最大のバッティングチャンスになるかもしれない。
しかし、プロの世界は追っかけっこだ。すぐに相手は初球にストライクなど投げてこなくなる。初球から振っていけるという最大の長所を生かしながら、決して相手の術中にはまらないために必要なことは……いかにボール球を振らないようになれるか。そのためにはしっかり考えて1打席、1球を大事にすること。「頭を使え」という亀井コーチの言葉には、積極的な中でもきちんとボール球を見極めて取捨選択できる読みと技術を磨けという思いが込められていたはずである。