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「智辯和歌山と比較されるんだろうな…」32歳若手監督に勇気を与えたイチローの言葉とは?〈國學院久我山センバツ躍進の秘話〉
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/07/15 17:00
センバツ甲子園準々決勝、4-2で星稜に勝利し笑顔でグラウンドを駆ける國學院久我山ナイン
「プレッシャーはあるし、怖いよ。でも、自分が選んだ道だから、そこから逃げることはできない。そのなかで一歩を踏み出していくことで強くたくましくなれる。そういう環境に慣れて、どれだけ自分のペースにできるかを考えればいい」
状況に左右されることなく己を貫くべきというメッセージは、若い指導者の心を軽くした。
「すごく勇気をもらいました。ぼくの心はほぐれて、まったくのノンプレッシャーになった。逆に、甲子園は楽しくてしょうがないというか。よし、力試しができるぞ。一戦必勝だ。この相手にどんな野球をしてやろうかって」
ともに過ごした時間、基本的な体の使い方から、技術論、メンタルに至るまで、長年の経験に裏打ちされた新たな知見を聞き出しては唸りながらメモを取った。文字で埋まった手帳を手に取り、「これは財産ですよね。イチローイズムがすべて載ってますから」とうなずく。
久我山野球とイチローの共通点
ただ、2日間で得たもう一つの財産はその手帳には書き込まれていない。新たに教わったわけではないからだ。
イチローは部員からの突拍子もない質問に対しても、ときにユーモアを交えながら真摯に答えてくれた。31歳の尾崎監督にとっては「神様」だったが、やがて親しみを覚え始めると、質問するばかりでなく自身の野球観を熱っぽく語るようになっていく。
「自分がこう考えてるんだっていう話をしたら、イチローさんは『いいね』って承認してくれたんです」
尾崎監督のもと國學院久我山が志向する野球と、イチローが目指してきた野球。やりとりを重ねれば重ねるほど、その方向性が一致していることが明らかになってきた。練習2日目、ウォーミングアップを見守りながらイチローはこんなことを口にした。
「人って、合う・合わないがあるけど、この久我山の雰囲気、それに監督の熱い感じも結構好きなんだよね」
久我山野球とは、一言で表せば“考える野球”だ。グラウンドは狭く、学業との両立のため平日の練習時間は3時間に限定される。そうした条件のもとで強豪ひしめく西東京を勝ち抜かなければならないから、考える力がおのずと必要になる。
「相手がパワーを持っているなら、そのパワーを出させないようにするのが、ぼくたちが勝つ術。個々の選手の感性を大事にしながら、こうしたらいいんじゃないかというアイディアを存分に出させたい」
尾崎監督の指導方針は、イチローが引退会見で語った次の言葉とシンクロする。
「アメリカの野球は頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつある。日本の野球は頭を使うおもしろい野球であってほしい」
だからこそ、イチローは去り際に「DNAを受け継いでくれるんじゃないか」との期待の声を漏らしたのだ。