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「智辯和歌山と比較されるんだろうな…」32歳若手監督に勇気を与えたイチローの言葉とは?〈國學院久我山センバツ躍進の秘話〉
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/07/15 17:00
センバツ甲子園準々決勝、4-2で星稜に勝利し笑顔でグラウンドを駆ける國學院久我山ナイン
イチローによる特別指導を境に大きく変わった選手の一人として尾崎監督が挙げたのが、その齋藤だった。右投げ左打ちの外野手という共通点を持つ先人のキャッチボール相手を務め、守備や打撃について直々に助言を受けた。
それに加えて齋藤が質問したのは、打席でのルーティンについて。バットを握った右手を前にかざす動きの意味は何なのか。
体をホームベースに正対させ、胸が投手側に向かないようにするための意識づけであると同時に、バットを基準として視界をセンターから左に向けさせる。強引に引っ張りにいかないようにする狙いがあると知った。
センバツの初戦、有田工業との対戦はもつれる展開となった。1点リードの中盤、3打席凡退が続いていた齋藤は尾崎監督から声をかけられた。
「ボールに対して素直に行こう。左中間意識で」
そのとき、脳裏にイチローの言葉がよみがえった。打席に入るなり、すっと右手を前に出す。齋藤が振り返る。
「試したのは初めて。完全に左中間方向の世界しか見えなくなりました。打球も自然とそっちの方向に飛んでいった」
レフト前へのヒットは貴重な追加点につながり、國學院久我山は春の初勝利をもぎ取った。
イチロー効果は「確実にあった」
2回戦は高知に、準々決勝は星稜に勝った。いずれも全国の実績では上の相手だったが、気おくれすることなく久我山野球を貫いた。
主将の上田は断言する。
「(イチロー効果は)確実にあったと思います。久我山の野球のスタイルを認めてもらったのが大きかった。自信になりました」
星稜戦で決勝2ランを放った主砲の下川邉隼人も「どういう相手が来ても自分たちの野球をやれば全然勝てるんだと思っていた」と振り返った。
尾崎監督も話していたように、イチローの「いいね」という承認が國學院久我山の背中を押したのだ。