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強豪フランスに敗れるも「愛さずにはいられない」2つのトライ…“1年の遅れ”を取り戻したラグビー日本代表の驚くべき修正能力とは?
posted2022/07/12 17:01
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Kiichi Matsumoto
「ビールを何杯か引っ掛けないと、やってられない」
試合後の会見で、ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチはそう漏らした。
就任以来、強面だったヘッドコーチだが、このところユーモアがにじみ出てきた。それにしても、フランス戦で勝ち切れなかった悔しさが拭えなかったのだろう。
勝てた。
15対20の敗戦のまとめは、このひと言に尽きる。
それでも、前半に奪った日本のふたつのトライは、このチームの現時点での完成度の高さを示すもので、興奮度マックス、「愛さずにはいられない」ものである。
「設計」が素晴らしい驚愕トライ
前半12分のトライは、フランス陣22m内側からのキックを、一発のカウンターアタックで仕留めた驚愕のトライだった。
このトライだが、「設計」が素晴らしい。
まず、自陣10m付近で(14)ゲラード・ファンデンヒーファーがボールを受けると、(15)山中亮平にパス。それから(11)シオサイア・フィフィタにボールが渡った時点で、驚きの構図が生まれていた。
日本はさらに外側に2枚、(12)中野将伍、(13)ディラン・ライリーが控え、全体構図として「5対3」、タッチライン際の狭いエリアでは「3対1」の数的優位を一瞬にして確立していた。
この構図は、2019年W杯のスコットランド戦、前半終了間際にWTB福岡堅樹がCTBラファエレ ティモシーからのゴロパントをキャッチし、トライを奪った構図と似ている。
W杯の時は、日本のPG不成功のあと、相手ドロップキックでの再開、日本がそのボールを確保した時点で、すでに外側に数的優位を作っていた。
手品のようであるが、手品ではない。設計の結果なのだ。
フランス戦のトライも発想は一緒だが、相手が蹴ってくるのを予測して、後ろのスペースに5人を揃え、しかも外側にセンターを2枚並べていたところにアタックコーチ、トニー・ブラウンのクリエイティビティがうかがえる。