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球体とリズムBACK NUMBER
〈マドリーCL14度目優勝→守備優位時代に?〉最新戦術でなくても「今日は誰にもゴールを奪われない」 神セーブ連発クルトワが豪語したワケ
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byMutsu Kawamori
posted2022/05/29 17:02
レアル・マドリーの守護神クルトワのセービング技術は、CL決勝の舞台でも圧倒的だった
これでこのベルギー代表GKが今大会に記録したセーブ数は61となった。決勝で相手のゴールを守ったアリソンは計15だ。チームのスタイルが異なるとはいえ、途方もない数字である。
個人的には、決勝のプレビューでこの30歳の守護神について触れなかったことを恥じている。長い移動があったうえ、論点が多くて組み込めなかったと言い訳したいところだが、今大会を振り返ると、マドリーが不条理にも思える大逆転劇を繰り返せたのも、要所でクルトワが見せたスーパーセーブによるところが大きい。
そこで失点すれば、勝負が決まってしまうような場面で彼が立ちはだかり、仲間を勇気づけ、終盤の奇跡に繋げたと見るべきだろう。試合後の会見でも訊かれたように、パリ・サンジェルマンとのラウンド16第1戦ではリオネル・メッシのPKも止めている。
戦術だけなら、マドリーは最先端とは言い難いが
監督として史上初めて5大リーグをすべて制し、さらにチャンピオンズリーグの最多優勝回数を4に更新したカルロ・アンチェロッティ監督は、過去の3度の栄冠と比べて、「間違いなく、今回が一番難しいものだった」と言う。
おそらく、まともにリバプールと撃ち合ったら大敗もあると考え、まずは低い位置に守備のブロックを敷いたのだろう。「相手のFWを最終ラインの裏に走らせない」ことを重視したと語っているように。
戦術だけの話をするなら、マドリーのそれは最先端とは言い難い。
隆盛を誇る現在のプレミアリーグでは、マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督とリバプールのユルゲン・クロップ監督が、ポジショナルプレーやゲーゲンプレス、偽FWに偽SBなど、新しい言葉と役割を次々に生み出してタクティクスの世界をリードしている。
しかしフットボールは、やはりそれだけで語ることはできないし、それだけで最高の結果を得られるわけでもない。
もともとダントツだった欧州制覇の回数を14──次点のACミランの倍にして、イングランド勢の総数と同じ──に伸ばしたマドリーは特に、戦術家とは括りきれない名将たちが栄光をもたらしてきた。ビセンテ・デル・ボスケ、ジネディーヌ・ジダン、そしてアンチェロッティと。
歴史、ファン、意欲、自信、諦めない姿勢、良い雰囲気、極めて高い選手の能力──アンチェロッティ監督は、マドリーの強さの源をそう言い表した。この日、セキュリティの問題でキックオフが36分も遅れた時、「自分はナーバスになってしまったが、選手たちは落ち着き払っていた」と明かし、頼りになる教え子たちを賞賛した。