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「一番のライバル」2連敗中の相澤晃が伊藤達彦を置き去りに…それでも男子1万で「世界陸上内定者」がゼロだった理由
posted2022/05/12 17:01
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph by
Yuki Suenaga
「やはり一番のライバルになると思っていたのは伊藤君だったので、伊藤君をしっかりマークしつつ、前半は先頭との距離を確認しながら行こうと思っていました」
5月7日の日本選手権・男子10000m。
相澤晃(旭化成)は、序盤から伊藤達彦(Honda)の背中を見ながらレースを進めていた。勢いのある大学生の田澤廉(駒澤大)ら他にも力のある選手は多数出場していたが、相澤が「負けたくない」相手として最も意識していたのはやはり伊藤だった。
東洋大出身の相澤と東京国際大出身の伊藤は、大学時代から競い合って、共に力を付けてきた。大学4年時の箱根駅伝2区、東京オリンピックの日本代表選考がかかった2020年12月の日本選手権10000mと、見る者に鮮烈なインパクトを残す好勝負をたびたび繰り広げた。とはいえ、そのいずれも勝利したのは相澤であり、これまではどちらかといえば、相澤に分がある印象だった。
ところが、昨年11月27日の八王子ロングディスタンス、今年4月9日の金栗記念選抜と、この2戦は直接対決で伊藤の勝利が続いている。それだけに、相澤の「負けたくない」という思いは、なおのこと強かったのだろう。
金栗記念で敗れた“スパート”「日本記録保持者のプライド」
レースが大きく動いたのは8000mの手前からだった。
「気持ちを抑えて前に行こうとせずに、ラストに勝負しようと思って溜めていました。ラスト2000mで勝負できればいいなと思って走りました」
それまで集団の中に待機していた相澤がペースアップし、ついに集団の先頭に立つ。さらに、前を走るオープン参加の外国人選手に食らいつくと、残りの周回数が減っていくにつれて、じわりじわりと伊藤ら後続との差を広げていった。
直近の金栗記念では、伊藤のラスト1周のスパートに屈したが、今度は2年前の日本選手権と同様に、相澤のロングスパートが冴え渡った。