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「一番のライバル」2連敗中の相澤晃が伊藤達彦を置き去りに…それでも男子1万で「世界陸上内定者」がゼロだった理由
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byYuki Suenaga
posted2022/05/12 17:01
オレゴン世界陸上の代表選考会も兼ねた日本選手権。男子10000mにはともに東京五輪を走り、大学時代からしのぎを削ってきた相澤晃と伊藤達彦の姿があった
「前回の優勝は、注目されていなかったから。“まぐれじゃないんだぞ”っていうのを、今回、見せることができたと思います。日本記録保持者のプライドを持って、これからもレースに臨みたいです」
伊藤や、優勝候補に挙がっていた田澤らを寄せ付けず、相澤は2年ぶりに日本一に輝いた。
運命の一戦だった日本選手権も「代表内定者はゼロ」
今回の日本選手権は今夏のオレゴン世界陸上の日本代表選考がかかった一戦だった。しかし、優勝を勝ち取ったとはいえ、相澤は即代表内定とはならない。世界選手権に出場するための参加標準記録(27分28秒00)を有効期間内に突破していないからだ。このレースでも、着順だけでなく、記録も意識しながら走っていたが、フィニッシュタイムは27分42秒85にとどまった(それでも、セカンドベストだったが……)。
この日の国立競技場の20時時点でのグランドコンディションは、天候・くもり、気温・19.0℃、湿度・81.0%、南南東の風0.1m/s。
「めちゃめちゃ暑かったですね。湿度が結構高かったので、いつも以上に汗が出ました」(伊藤)
「蒸し暑いなかのレースで、前半からきつくて、なかなか前にいくことができませんでした」(相澤)
気温だけを見れば涼しいようにも思えるが、ほぼ無風で湿度が高かったため、走り終わった選手たちからは「蒸し暑い」という言葉が聞かれた。記録を狙うには、この蒸し暑さが思わぬ敵となったようだ。
入りの1000mこそ2分42秒と参加標準記録を狙えるペースだったが、「ペースメーカーに積極的に付いていく予定だったんですけど、予想以上に序盤からきつかった」と伊藤が振り返るように、そこからはなかなか思うようにペースが上がらなかった。
5000mは13分49秒で通過。参加標準記録は6月26日までに出せばいいが、代表に内定するには「日本選手権の順位」が最優先される。まずは代表枠の3位以内を狙う必要があり、選手たちが勝負重視に切り替えたのも十分に納得ができる。レース中盤から少しペースが停滞したのも仕方ないことだった。
結局、この日本選手権では参加標準記録をクリアした選手は出ず、唯一の突破者だった田澤も10位に終わったため、男子は世界選手権の即内定者はゼロに終わった。
したがって、多くの選手にオレゴン行きの切符を手にするチャンスがまだ残されている。おそらく6月22日に北海道・深川で開催されるホクレン・ディスタンスチャレンジ20周年記念大会が、標準記録を狙うラストチャンスだろう。相澤もこのレースに出場し、そこで記録を狙いにいく予定だ。
「今回とは違って、次は正真正銘の最後のチャンスになると思う。どんなにきつくても、タイムを狙いたいと思います」