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102球8回降板に賛否…なぜ佐々木朗希20歳は“完全試合目前”でマウンドを降りたのか? 関係者が語る「3年前の登板回避は無駄ではなかった」
text by
島沢優子Yuko Shimazawa
photograph byJIJI PRESS
posted2022/04/30 17:05
2試合連続の完全試合達成まで残り僅かに迫った102球8回で降板した佐々木朗希
「メジャーを経験している吉井(理人)さんが投手コーチとして、先発は100球が目途で、リリーフはできるだけ3試合連続は投げさせないなどの球団としてのガイドラインを作った。ここ2年はそれが運用されていたので、完全試合が目前だとしても佐々木が降板するのもロッテファンからすれば特別な驚きはないと思います。吉井さんの存在は大きかった」
現役引退後に日ハムでコーチを務め、今季からロッテのピッチングコーディネーターとして育成のベース作りを進める吉井氏は、2014年から川村准教授らが教える筑波大学大学院(人間総合科学研究科博士前期課程体育学専攻野球コーチング論研究室)に通う。川村准教授の野球コーチング論研究室でけがをしないフォームづくりや正しい選手育成について見識を深め、今季開幕前には米・ドジャースへ短期留学。最新のコーチングや育成方法をさらに学んでいる。
川村准教授の下には、現役引退後のソフトバンク前監督の工藤公康さん、佐々木の恩師である国保さんも通っていたという。国保さんから、吉井さんへ――。「佐々木育成計画」のバトンが奇跡的に渡された。
「佐々木君は、ドラフトで引き当てられ吉井さんのいるロッテに入った。これはもう、運があるとしか思えない。育成に対する意識はまだ球団によってばらつきがあると感じます。(佐々木選手が)ほかの球団に入っていたら、あるいは今季のような活躍はなかったかもしれません」(滝川さん)
目先の勝利よりも選手の健康や未来を重んじる価値観へ
プロ野球でも、つい1、2年前まで選手に罰走させたり、怒鳴りつける指導が当たり前のように残存していた。一方で、小中高のユース年代も怒鳴ったり、罰走をさせるなど理不尽な指導スタイルは多少は残存するものの、少しずつ影を潜めてきた。むしろ投球数制限を行ったり、障害の予防に取り組む指導者が少しずつ増えている。さらに、ロッテファンが完全試合目前で降板する佐々木を拍手で迎え入れる姿から、目先の勝利より選手の健康や未来を重んじる価値観が広まりつつあることを実感させられる。
佐々木について、上述した医師の高橋さんは「高校はもちろんのこと、彼のこれまでの積み重ねや成果が、実を結び始めたのでしょう」と言う。
「さまざまな局面で、自分と向き合って考えながら本人がプレーしている。だからこそ、怪我をせずに今に至っているのだと思う」