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102球8回降板に賛否…なぜ佐々木朗希20歳は“完全試合目前”でマウンドを降りたのか? 関係者が語る「3年前の登板回避は無駄ではなかった」
text by
島沢優子Yuko Shimazawa
photograph byJIJI PRESS
posted2022/04/30 17:05
2試合連続の完全試合達成まで残り僅かに迫った102球8回で降板した佐々木朗希
これについて、多くのプロ野球選手が頼る慶友整形外科病院(群馬県館林市)で診療にあたる高橋啓(とおる)医師は「球速が速いということは、出力が大きいということ。故障リスクが上がるのは当然です」と話す。
「出力が大きいので、負担をかけ続けると肘などの“靭帯”が損傷したり、断裂するリスクが高まります。靭帯は筋肉で守られていますが、筋疲労が増してくれば筋肉や靭帯への負担も増えます」
高橋医師の言う出力とは、主には「筋出力」、筋肉が発揮する力を指す。それを支える「靭帯」は高速ピッチャーたちの命綱ともいえる。
さらに高橋医師は「野球をやっている高校生にも、体の硬い子がたくさんいます。股関節や肩甲骨周囲が驚くほど硬い」と明かす。
「数十年前に比べて、体を動かして遊ぶ場所はなくなってきているし、木登りなど全身を使った遊びをする機会も少なくなっているのではないでしょうか。野球だけやっていると動きは限られる。故障リスクのある選手はたくさんいると考えられます」
過去には、150~160キロ台を投げる剛腕ピッチャーの多くがメジャーリーグに渡った後に靭帯再建術(トミー・ジョン手術)を受けている。例を挙げれば、大谷翔平、ダルビッシュ有、田澤純一らは、手術を受けて復帰、活躍を続けている。
前出の柏木さんは「彼らは手術によって復活でき幸運だった。でも、できれば佐々木は万全の状態でプロ野球を経てメジャーに行かせたいと国保君は考えていたと思う。その思いをロッテが引き継いでくれた。プロ野球でも選手育成の意識が高まっているからではないか。その部分で佐々木は強運だと思う」と話す。
ファンにまで浸透している“選手育成ガイドライン”
佐々木は先発2試合目の日ハム戦、102球を投げ切った8回で降板した。ロッテ井口資仁監督は「100球弱(で交代)だと思っていた」とほぼ予定通りの降板だったことを明かしている。佐々木がマウンドを後にする際、ファンからは拍手が贈られブーイングはほとんど見られなかったようだ。
これに対し、野球書籍の編集にかかわる滝川昂さんは「ロッテが選手育成に球団をあげて取り組んでいる証だと思う」と話す。『新しい投手指導の教科書 これからの野球に必要な「野手兼投手」の育成術』など、国保さんらを指導した筑波大野球部監督の川村卓准教授の著書を企画してきた。