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プロ野球スカウト「ドラフトに“飛び級”があったら、今年でも1位」45年前の江川卓を思い出す…法政大2年投手・篠木健太郎とは何者か?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2022/04/12 17:30
東京六大学リーグ、早大戦で9回1失点完投勝利の法政大2年・篠木健太郎(177cm75kg・右投左打)
ダグアウトの上方で見ていると、投手の投げるボールも、打者の打球も、ボールが横方向に動くので、臨場感とスピード感がリアルに実感できる。
ネット裏が最高のビューポイントと考えている方が多いようだが、野球というスポーツのダイナミズムを体感するには、ボールの動きを横に見られるこの位置がいちばん適しているように思う。
その位置から見ていたから、篠木健太郎投手のボールの軌道がはっきり見えた。
ホップしたくてしょうがないストレート。
篠木投手のようなオーバーハンドのストレートがホップすることは、実際にはあり得ないそうだが、人間の目には、どうしてもホップしているように見える。
今年のドラフト1位候補と評される早稲田大の4番・蛭間拓哉中堅手(4年・176cm85kg・左投左打)は、学生球界トップクラスのスラッガーだ。
それほどの蛭間選手でも、最初の2打席、篠木投手の140キロ後半の速球にミートポイントを作れない。完全に差し込まれた力のないファールが、三塁側に飛んでいくだけだ。
そして、3打席目。顔の高さほどの速球に思わずバットを出して、空振り三振を奪われた。
「江川のストレートだ…」
私の席からは、胸ぐらいの高さに見えたボールが、打席の蛭間選手の前を通過する時には、顔ほどの高さにホップしたように見えた。
江川のストレートだ……。
今から45年ほど前、同じ法政大学のエースとして君臨した江川卓投手(1974年同大入学、78年卒業)。
作新学院高当時から、バットに当てるのがやっとの無敵の剛速球を誇り、右肩の痛みと闘いながら、のちに読売ジャイアンツでも活躍した伝説の右腕だ。
同じ1974年入学組として、学校は違ったが、私は剛腕・江川の速球を神宮球場のスタンドから何度も見ていた。
東京六大学の強打者たちが、江川投手の速球にきりきり舞いさせられていた。当時、スピードガンがあれば160キロ近い表示が出されただろう……と言われる速球に振り遅れる場面もあったが、多くの打者たちはボールの高さを間違えて、空振りを奪われていた。
「ショートバウンドだと思って見逃したら、低めのストライクだった……」
実際に対戦した打者が、そんな驚き方をしていた。
ベルトの高さを空振りしたボールを、捕手が中腰になって捕球した場面もあった。
江川投手から45年ほど経って、同じ法政大学に「江川のストレート」を投げる快腕が現れた。
プロ野球スカウト「もしドラフトに“飛び級”があったら…」
この日、法政大・篠木投手は早稲田大を相手に9回を1点に抑えて、奪った三振は27アウトのうち半分以上の14三振。
カットボール、チェンジアップでも三振を奪ったが、速球の高低を間違えた空振りも数多く、“ホップ成分”抜群の篠木投手の快速球は、最終回まで勢いが衰えることはなかった。
「タフですね、三塁打打った直後のイニングも、アウトは3つとも三振でしょ」