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「相手の子どもをののしる親」「コンニャクで6キロ減量」柔道の小学生全国大会廃止、“過熱する”大人たちの本音「悪魔的な魅力あった」
text by
塩谷耕吾Kogo Shioya
photograph byKYODO
posted2022/04/14 11:02
全柔連は「行き過ぎた勝利至上主義」を理由に毎年8月の全国小学生学年別大会を廃止すると発表した(※写真はイメージ。本文とは関係ありません)
記者が昨年、取材した大学生は、小学校6年生のとき、個人戦に出るために指導者から6キロの減量を強いられたという。普段のご飯は麦飯、試合前はコンニャクを食べていた。試合前は保護者や指導者の重圧で、不眠に陥ったこともあったという。
「今思うと、なぜ小学校の習い事であんな苦しい思いをしないといけなかったのか」と振り返っていた。彼は一度、柔道から離れて、大学の柔道サークルで再開している。
この大会は、財政難に陥った全柔連が小学生からも登録費の徴収を始める際、その還元事業として創設し、2004年から始まった。ただ約10年も前から、上記の問題点が理事会で報告されていたという。この1、2年で議論が本格化し、今年1月に大会の廃止が正式に決まった。全柔連の山下泰裕会長は「全体的には勝利志向が強すぎる。子どもたちにはのびのびと柔道をやって、柔道を好きになってもらいたい。今回の廃止の決定が、その第一歩になってほしい」と話した。
「子どもを勝たせることには、悪魔的な魅力があった」
一方で、柔道専門webメディア「eJudo」の古田英毅編集長は「先に日程だけを発表したことで、指導者の間で混乱が起こった。全柔連は柔道が目指す世界観をしっかりと示し、指導者の理解、協力を得る努力をするべきだ」と話す。そして「(大会廃止などの)システムの変更で行きすぎた指導を是正することには賛成だが、春、秋にある団体戦の全国大会は残っている。効果は限定的ではないか」とも指摘する。
古田さんは新宿区柔道会で小、中学生を教える指導者の顔を持ち、かつては自身も小学生の全国大会出場を目指し、指導に血道をあげた経験がある。練習量を増やし、力のある子どもを集中強化した。組み手争いや勝つための駆け引きも詰め込み、2010年に団体戦で念願の全国大会初出場を決めた。「子どもを勝たせることには、悪魔的な魅力があった。現役時代に大した結果を残せなかった自分が教えた技で、子どもたちが勝つ。それは、自分は優れた指導者であると柔道界で認められるということだから」と大人が少年指導に過熱する構図を解説する。柔道家であった父の助言や、娘が入門したことで柔道を学ぶ意義を考え直し、指導方法を変えた。全国大会を目指すこともやめた。
今でも小学生の全国大会の試合会場に取材にいくと、試合中に怒号を響かせる指導者をみる。選手に柔道の何が好きか聞くと、「試合で勝つことが好き」と答える子どもが多くて驚くという。試合漬けでケガだらけの子どもがいる。小手先のテクニックだけを仕込まれ、中学生になると勝てなくなり、柔道をやめる子もたくさん見てきた。
「指導者として認められたり、自分の柔道の達成度をはかるには、勝負の結果でしか示せない現状がある。子どもが達成感を得る指標も勝負以外なかった。礼儀作法や教育観など、柔道界として“あるべき世界観”を整理して、統一的な級位制度などに落とし込んでいく必要があるのではないか」と話す。
指導者に毎日ぶたれ、怒られて育った
バレーボールの元日本代表で、日本バレーボール協会理事の益子直美さんは、ツイッター上で「バレーも柔道に続きたい!」と反応した。