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あの只見がなぜ21世紀枠に? センバツ出場の立役者がいま明かす、“推薦プレゼンの裏側”…改めて考えた「高校野球はどうあるべきか」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/04/09 11:00
21世紀枠で甲子園初出場を果たした只見。東北地区の選考委員会でいかにして決まったのか?
只見町には、地域活性の一環として町外の生徒を受け入れる「山村教育留学制度」がある。野球部にもその制度を活用する生徒がいることもあり、彼らが生活する宿泊施設にも訪れた。そこには只見の野球部出身者が働いており、熱心に話に耳を傾けた。
「只見町、穏やかでいいところですね」
木村が印象を率直に言う。
「先生、たまにくっからそう思うんですよ。生活するだけでも大変だかんね」
他愛のない会話のなかにも、野球部の話題が必ず挙がる。それは誰と話しても、だ。
「施設のみなさん、町のみなさん、私にすごく熱いメッセージをくれるんです。野球部の子供たちの純朴さ、目の輝き、清々しさ。そういったものが届いてるんだなと、只見町の温かさを感じました」
51歳にして初めて訪れた地での旅で、木村が只見の息吹を体に沁み込ませる。
原稿添削を重ねて…迎えたセンバツ選考
草案作りに取り掛かると想いが溢れ、3分30秒に収めなければいけないところ、「最初は8分台でした」と木村が笑う。
客観性を得るため第三者に原稿の確認や添削を依頼し、週末には小学生の娘にタイムを測ってもらいながらスピーチを聴いてもらう。妻にも「2年前のドキドキ感が、また始まるんだね」と背中を押してもらうと、使命感が高まる一方で「申し訳ねぇな」と心で詫びた。
迎えた1月28日。
改稿を重ねること「13回くらい」。3分半以内にまとめた最終稿を携え、木村はセンバツ選考委員会に臨んだ。
県高野連の事務局がある福島商の視聴覚室で、ひとり推薦理由説明会の順番を待つ。
パソコンの画面をじっと見つめる。この日は3年生の定期考査だったため、校内に静けさが漂う。試験の終了を告げるチャイムすら鳴らない。それは、「木村先生が只見高校をプレゼンする大切な日だから」と学校側が配慮してくれたからだった。
「テストの日にチャイムが鳴らないなんてとんでもないことなんですけど、校長先生はじめ先生方が協力してくださって。頭が下がりましたし、なおさらプレッシャーが(笑)」
東北地区の、木村の出番が回ってくる。
只見のスローガン「小さな学校の大きな可能性」
「画面越しでもみなさんに熱い気持ちを伝えるためにはどうしたらいいか?」
立つしかない――全員が座ったままプレゼンしていたなか、木村だけが直立不動となり、只見高校への想いを放出した。