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あの只見がなぜ21世紀枠に? センバツ出場の立役者がいま明かす、“推薦プレゼンの裏側”…改めて考えた「高校野球はどうあるべきか」 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byHideki Sugiyama

posted2022/04/09 11:00

あの只見がなぜ21世紀枠に? センバツ出場の立役者がいま明かす、“推薦プレゼンの裏側”…改めて考えた「高校野球はどうあるべきか」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

21世紀枠で甲子園初出場を果たした只見。東北地区の選考委員会でいかにして決まったのか?

 過去10年の夏の戦績を振り返っても、最高は3回戦で初戦敗退も当たり前。センバツの代表校を決める秋の大会もベスト16にすら勝ち進んだことがなかった。

なぜ只見が県推薦を得られた? 理事長の見解

 昨秋、そんな只見に風が吹いた。

 まず、コロナ禍で実戦経験が思うように積めないことを考慮し、県高野連が支部大会を開催しながら、県大会は全校参加のオープントーナメントにしたことだ。従来の福島であれば、各支部の上位チーム、敗者復活から勝ち上がった数校が県大会に進むのだが、会津地区で初戦敗退の只見が県大会を戦えた背景にはそういった事情があった。

 県大会で只見は、組み合わせにも恵まれた。準決勝までの4ブロックに分けると、只見のやぐらにはセンバツに出場した聖光学院や昨夏の代表校の日大東北、学法石川、東日大昌平、光南、福島商など有力校がいなかった。それでも、創部初のベスト8とエポックメイキングできたことは評価に値するのだが、ここでひとつ大きな疑問が残る。

 実績を残す公立校はほかにもある、という点だ。一例を挙げれば、只見を準々決勝で下しベスト4に進出したいわき光洋だ。いわき地区では進学校の磐城に次ぐほどの文武両道の高校で、17年夏の準優勝など結果を残している。そして、ベスト8のふたば未来学園にもバックボーンがある。東日本大震災による福島第一原発事故で休校を余儀なくされたことで新たに誕生し、野球部も近年、目覚ましい躍進を遂げている。

 そういった高校を差し置いて、なぜ只見が21世紀枠の県推薦を得られたのか?

 理事長の木村は推薦校を決める県の選考委員会には参加できない決まりとなっているが、個人的な見解でその疑問に答える。

「やはり、県大会でベスト8まで勝ち進んでくれたのが一番だと思います。只見高校さんは前身の高校から70年以上の歴史がありますが、現在の町は少子高齢化が進む過疎地で、全校生徒も84人しかいません。これまでも幾多の廃校の危機があったにも関わらず存続できているのは、住民、町、役場が三位一体になって支援しているからなんです。野球部の生徒たちもそのことに感謝し、日々努力している。その成果が秋の結果であり、県の委員会からすれば『ようやく選考の土俵に上がってきてくれた』という想いだったでしょう」

 木村が述べた背景に付け加えれば、只見の野球部員はマネージャーを含めてわずか15人。町も日本有数の豪雪地帯で、冬は1メートルの積雪を記録する日だってある。

 話題性は十分。しかし木村は、そんなメディア的な“見出し”より大切なものを只見に見出していた。今度は自身がプレゼンする東北地区の選考委員会で、想いをぶつける。

プレゼン準備で考えた「高校野球の原点」

 21世紀枠の理念はどこにあるのか?

【次ページ】 只見町で見た“野球部のあり方”

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