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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「一室にトレーニング器具は2つだけ」飯田貴之、近藤幸太郎ら…青学大ランナーが始発でも通いたい“人気ジムの正体”
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTomosuke Imai
posted2022/04/01 11:00
今年の箱根駅伝で活躍した青学大の飯田貴之選手をはじめ、多くのランナーを指導する佐藤基之フィジカルトレーナー
「例えば、大学何年時の感覚が一番良いんですってよく言うんですけど、もうその時からは時間もたって身体の状態とかも変わっているわけです。だけど、そういう人に限って、感覚が悪いと思う時の方がタイムがよかったりする。自分の感覚ほどズレているものはないので、そこに固執せずに今に向き合ってくれないとなかなか前に進めないですね」
もちろん例外もある。今年のニューイヤー駅伝、7区の三上嵩斗(SGH)は11位で襷を受けたが、区間2位の走りでチームを7位入賞に導いた。東海大4年時から卒業後も自分の走りを取り戻せずに苦しんだが、ようやく結果を出した。
「三上はもともと感覚派の選手ですけど、非常に頭の良い選手だったので、トレーニングの意味を理解してフィジカルトレーニングと競技の練習を続けることができました。約2年間結果が出せず苦しんだ時期があったからこそ、恐怖心なく新しいトレーニングにチャレンジしやり直しするという気持ちになれてここまできました」
「練習とプライベートが10:0ですね」
ここには明確な目標を持ったトップランナーが集まる。では、これまで多くの選手を見てきて、佐藤が感じる“伸びる選手の特徴”とは何か。
「学生時代に活躍して実業団に進んだけど成績が上がらない選手がいますが、厳しい部活の練習量から解放されて、自主性を重んじるチームに所属し自分でやらなければならないってときにサボっちゃうパターンが多いですよね。練習量が維持できなければ力は下がるのが運動の原理原則。大学生は箱根駅伝という大きな目標がありますが、実業団に入ってしまうといつのまにか目標や日々の目的、ゴール設定がなくなって、ただ陸上選手という職業をやっている人もいるのではないでしょうか。
でもここに来る子は、常に練習・トレーニングとプライベートが8:2ぐらいです。田村和希(住友電気工業)、吉田祐也(GMO)、に至っては10:0と言っても過言ではない。学生の時からです。遊びたい、休みたい気持ちも少しはあるでしょうが、ここで一回5~6時間トレーニングに充てています。環境は違うが湯澤舜(SGH)も同様に取り組む姿勢がピカイチの一人ですし、女性では木村友香(資生堂)もそうですね。では、それはなぜか。ここに来て、与えられたトレーニングをすることで目標達成の近道であると信じ、継続しないと強くなれないことが分かっているからです。目的を明確化し、能力だけじゃなくて努力できる選手が最強ですね」
長距離の選手に効く特効薬はない。結局は、少し遠回りをしても強くなるために必要なことを理解し、地道にそれを身に付けていかなければ箱根でも世界でも戦えない。佐藤の覚悟に選手が呼応し、地道なトレーニングで汗を流して、成長していく場は、「サロン」というより継続できた者だけが生き残るリアルな「虎の穴」のようにも見えた。
(撮影=今井知佑)
<後編へ続く>
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