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野村祐輔が“がばい旋風”に飲み込まれた日、広陵・中井監督が審判を批判したワケ… 小林誠司「あの言葉はものすごく嬉しかった」
posted2022/03/19 17:04
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
年末、広陵には恒例の行事がある。
広陵出身の現役プロ野球選手が全員、母校に集結するのだ。小学生を対象にした野球教室の講師を務めるためである。昨年は広島の野村祐輔、巨人の小林誠司ら、じつに15名が勢ぞろいした。
野球教室を始めたきっかけは2014年8月に広島市で起きた豪雨による土砂災害だった。同年12月、被災した小学生を励まそうと監督の中井哲之の発案で始めたイベントだった。
これだけ豪華なイベントを毎年継続していることにも驚かされるが、それ以上に驚いたのは毎年100%だというOBの参加率の高さだ。'17年、ドラフト9位でDeNAに入団し、代打の切り札として活躍する佐野恵太が言う。
「他校出身の選手が母校に行くことが少ないとか聞くと、びっくりしちゃいますね。僕らは年末になったら、母校に帰るのが当たり前になっているので」
無論、母校イコール恩師である。彼らは年末に決まって帰るだけでなく、中井に年賀状、盆暮れの中元や歳暮も欠かさない。またシーズン開幕時と終了時には必ず電話で報告するという。
有原航平が明かす“先生”の教え「一人前の男になれ」
選手たちは、中井のことを「先生」と呼ぶ。それは中井の口癖でもある。
「監督である前に、わしゃ先生じゃけ」
高校別の現役プロ野球選手は大阪桐蔭、横浜に次いで多い。いわゆる強豪私学で、監督を先生と呼ぶチームは極めて珍しい。
中井は宣言通り、「先生」の仕事に徹している。今や日本ハムのエースとなった有原航平が話す。
「中井先生には入学したときから『野球がうまくなって卒業するより、一人前の男になって卒業しろ』と言われ続けてきた。自分たちで考えてやれってノーサインの試合もあった。練習中もこうやったらいいんじゃないかと提案はあっても、こうしろという強制はなかった」