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野村祐輔が“がばい旋風”に飲み込まれた日、広陵・中井監督が審判を批判したワケ… 小林誠司「あの言葉はものすごく嬉しかった」 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2022/03/19 17:04

野村祐輔が“がばい旋風”に飲み込まれた日、広陵・中井監督が審判を批判したワケ… 小林誠司「あの言葉はものすごく嬉しかった」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

2007年夏、野村祐輔と小林誠司のバッテリーを擁した広陵は、甲子園決勝で佐賀北に惜敗。試合後、中井哲之監督は8回のジャッジを公然と批判した

 練習は自主練習がメインだ。全体練習は夕方4時から2時間程度。いったん寮で食事を摂り、夜からそれぞれ自主練習に取り組む。広陵出身のプロ野球選手はほとんどが大学や社会人を経由している。高校卒業後に伸びるのは自分で考える習慣が身についているからである。

 人間教育とチームの勝利。この二つはときにぶつかり合うが、中井は人間教育で押し切ってきた。佐野らの代は夏、2年連続で広島大会3回戦で敗れた。それでも負けたことに関しては何も言われなかった。

「先生から何が何でも勝て! みたいなことは言われたことはなかった」

 試合中、劣勢に立たされたときの決め台詞はこうだ。

「男の生きざまを見せてこい!」

 中井は試合後の取材等でも戦術的なことを語ることはほとんどない。

「僕は男は真っすぐ生きるんぞ、っていうことを一貫して教えてきたんで。嘘はいかん。プロ野球選手になるなんてことは、次の次の次でいい。野球を通じて、男らしい男になることの方がはるかに大事。大人の世界は汚い。年齢とともにグレーな部分を経験したくなくても経験していく。それでも同じことを言い続けてきました」

中村奨成「中井先生の下なら絶対、成長できる」

 一昨年の夏、甲子園で大会記録となる6本塁打を放った広島の中村奨成は、中学時代、「化け物」と呼ばれていた。当然、県内外、何校もから誘いの声がかかった。いくつもある選択肢の中から広陵を選んだ理由を中村はこう話す。

「どこの監督さんも、まず技術のことを言う。でも中井先生は人間の中味の話をしてくれた。男なら、真っすぐ、正直に生きろ、と。その言葉が刺さりました。中井先生の下なら絶対、成長できると思った」

 広陵の選手は、中井に怒られても「すみません」とは言わない。「ありがとうございます」と返すよう教育されている。

【次ページ】 「広陵のグラウンドが一番ジーンと…」小林誠司の回想

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