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野村祐輔が“がばい旋風”に飲み込まれた日、広陵・中井監督が審判を批判したワケ… 小林誠司「あの言葉はものすごく嬉しかった」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/03/19 17:04
2007年夏、野村祐輔と小林誠司のバッテリーを擁した広陵は、甲子園決勝で佐賀北に惜敗。試合後、中井哲之監督は8回のジャッジを公然と批判した
'07年夏、決勝戦での“疑惑のジャッジ”に中井は吠えた
小林はそのあと三塁ベンチの上に立たされ、1時間以上「声出し」をさせられた。
「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」「失礼します」「ありがとうございました」をひたすら繰り返すのだ。小林はこのときだけでなく、ことあるたびに三塁ベンチ上行きを命じられたそうだ。ただ、原因はやはりいずれも野球とは関係のないことだった。
中井の真っすぐさ――。それを痛いほど知っているのが、小林らの代だ。
'07年夏、野村-小林のバッテリーを擁する広陵は決勝に進出した。相手は公立高校ながら快進撃を続けてきた佐賀北だった。広陵は8回表を終え、4-0でリードしていた。そこまで野村が許した安打は、わずか1本。完全なワンサイドゲームだった。
だが、下位打線に連続ヒットを許し、1死一、二塁とされると、スタンドの歓声と手拍子が一斉に佐賀北を後押しし始めた。そこから際どいコースの球が何度かボールと判定され、連続四球。押し出しで1点を失った。小林はミットで地面を叩き、抗議の意を表した。
満塁とされた広陵バッテリーは直後、まさかのホームランを浴びて4-5で逆転負けを喫した。ゲームセット直後、中井は野村と小林にこう言い含めたという。
「判定のことに関しては、何も言うな」
それは理不尽なことも飲み込めという教えではなかった。宿舎に戻ってからのことだった。中井は二人を両脇に従え、テレビカメラの前で吠えた。
「うちが弱いから負けたんでしょうけど、バッテリーが一番よくわかってる。あまりにもジャッジが……。高野連さんにも考えてもらいたい」
グラウンドから泣き通しだった小林は、またしても涙が止まらなくなった。
「中井先生がめちゃくちゃ言ってるから、え? って思った。高校生ながら、やばいんじゃないかなって。でも、あの言葉はものすごく嬉しかった。スッキリしました」