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「マラソン成功の再現性が低い」好タイムが続出しても日本男子マラソンが世界で勝てないのはなぜか?〈大迫傑が現役復帰を表明〉 

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酒井政人

酒井政人Masato Sakai

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photograph byNanae Suzuki

posted2022/02/10 11:04

「マラソン成功の再現性が低い」好タイムが続出しても日本男子マラソンが世界で勝てないのはなぜか?〈大迫傑が現役復帰を表明〉<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

東京五輪を最後に現役を引退していた大迫傑が、現役復帰を発表した

 2015年はナイキの厚底シューズが登場前のシーズンで、2019年以降は多くの選手が同シューズを着用。先ほどの日本リスト50位のタイムでいうと、2015年(2時間15分18秒)と2019年(2時間12分32秒)で2分46秒も上昇している。

 箱根駅伝など他のレースでも1kmあたり2~3秒のタイムが短縮されているが、ナイキの厚底シューズは「マラソン後半でも脚を残すため」に開発されたモデル。マラソンでこれだけタイムが伸びているのは、ある意味“想定通り”といえるだろう。

 しかも日本は駅伝文化があるため、長距離トップクラスの選手層が厚い。この数年は故障予防のトレーニングに力を入れるなど、厚底シューズの使い方も“進化”している。

 では世界はどうなのか。

マラソン大国は“記録更新の機会”を失っている

 男子マラソンの世界リスト50位のタイムは2015年が2時間7分57秒で、2019年は2時間6分22秒。こちらは1分35秒の短縮だった。しかし、2020年は2時間7分09秒、2021年は2時間6分26秒と上昇していない。これはパンデミックの影響といえるだろう。国内でも多くのマラソン大会が中止や延期に追い込まれているが、他国は日本と比較してトップ選手が記録を狙えるレースが多くないからだ。

 特にマラソン大国であるケニアとエチオピアは国内のマラソン大会がほとんどない。かといって、海外レースにどんどん参戦できるという状況でもないため、それがタイムにも表れている。

 反対に新型コロナウイルスの影響で海外招待選手が不在となったことが日本人には良かった面もある。超強力な海外選手に合わせたペースでなく、日本人にちょうどいいペースでレースがコーディネートされたからだ。

 その結果、日本人の好タイムが続々誕生。特に昨年2月のびわ湖毎日マラソンは“大豊作”となった。作田将希(JR東日本)が初マラソン日本最高記録の2時間7分42秒で走破するなど、日本人選手14人が2時間8分切りを果たしたことで、日本人のメンタリティは大きく変化した。

 日本陸連の高岡寿成シニアディレクターも「近年は1km3分ペースが『速い』と思わせないような意識に引き上げられている。自分たちもできるのではという感覚が選手たちの力になっているんじゃないでしょうか」と分析している。

別府大分で指摘された「マラソン成功の再現性が低い」とは

 強風となった別府大分は好タイムになったが、日本マラソン界の課題も浮き彫りになった。昨年のびわ湖で2時間7分12秒(6位)をマークした大六野秀畝(旭化成)ら国内招待選手8人のうち2時間10分を切ったのは藤曲のみ。初マラソンの西山と古賀、マラソン本格参戦の鎧坂が上位に入ったのとは対照的な結果になったのだ。

【次ページ】 日本人で「2時間7分切りを複数回達成」はたった2人

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