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「美しさもスペクタクルもない、リアリズムの勝利だ」トルシエが中国戦に見た“日本の自力突破”の可能性と大一番サウジ戦の課題
posted2022/01/31 17:00
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Takuya Sugiyama
フィリップ・トルシエに電話をしたのは、ワールドカップアジア最終予選・日本対中国戦が終わった直後だった。埼玉スタジアムのプレスルーム。試合後の監督会見が始まる前のいまだ興奮が冷めやらぬときに、日本が勝ち点3をモノにするという目的を達成した試合をトルシエはどう振り返ったのか。「リアリズムの勝利」と総括する中国戦をトルシエが分析する。
――試合は見ましたか?
「ああ、見た」
――日本が勝って私たちも結果には満足ですが、どんな印象を持ちましたか?
「まずこの中国戦は、絶対に勝たねばならない試合だった。日本にとってはとても大きなものがかかっていたが、それは中国も同じだった。中国もプレーオフに進むためには最低でも引き分けが必要で、望みを広げるには勝利が求められたからだ。
そうした状況で、キックオフからの10分間はプレーがバタバタした。3本とパスが繋がらずにデュエルの連続で、まるで戦いを始めたボクサーのようだった。こちらがパンチを繰り出せば、相手もパンチで返す。その繰り返しで、相手を観察する余裕がどちらにもなかった。日本も中国も、すべての場面でイニシアチブを握ろうとした。ボールが動くたびにデュエルが起こり、激しい奪い合いが繰り返される。相手を圧倒して何もやらせないという強い意志が感じられた。どちらも集中して臨み、フィジカル面でも運動能力の面でも最大限の力を発揮していた。
そんな状況で日本がPKを得た。ハンドは明らかだったから正しい判定だが、そこから試合の流れが傾いた。日本はコレクティブなプレーで優位に立ち、落ち着きも取り戻した。自分たちが本来実践すべきである組織的でコレクティブなプレーで、ボールを失っても慌てずにすぐに奪い返した」
日本は本気で中国を封じ込めた
――たしかに流れが傾きました。
「日本がゲームを支配したが、攻撃はすべて右サイドからだった。特に前半はそれが顕著で、伊東(純也)がチャンスを作り出した。彼と大迫(勇也)が中国を危険な状態に陥れた。
対して中国は、日本の攻撃に対処して反撃する術を持たなかった。低い位置にブロックを敷いてそこから出られずに、カウンターアタックでチャンスを狙えない。前半は日本が完全に主導権を握り、常にアグレッシブにプレーして中国に何もさせなかった。その点で日本は本気だった。本気で中国を封じ込め、自信を回復させる余地を与えなかった。とても重要なポイントだ。中国に何もさせず彼らの自信を根こそぎ奪い取った。