テニスPRESSBACK NUMBER
29歳でGS最高成績へ…“狙い通りの遅咲き”ダニエル太郎がフェデラーに憧れる理由「必死でポイントを取りにいってる感じじゃない」
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byMano Hiromasa
posted2022/01/25 11:01
全豪オープンで元王者のアンディ・マリーをストレートで退ける大金星をあげたダニエル太郎
理想に向かって「ちょこちょこ成長していく」ために、この数年いろんなことを試していたなあと思い返される。2017年の終わり頃、ファンの間ではかなり話題になった“トカゲ歩き”トレーニングというものがあった。「自分の体のコントロール能力を上げていくためのムーブメントの一つ」だと説明し、トレーニング・マニアの父の影響で始めたことだと言っていた。「初めてトレーニングが楽しいなと思えるようになった」と話していたのもその頃だ。
サーブの前に毎回故意に舌を出してみたり、去年の今頃はサーブのモーションで後ろの足を前に寄せる不自然な動きをしていた。見た目など気にせず、自分に合うリズム、ルーティンを探していたという。強いイメージを出すために、後ろ前にかぶるトレードマークのキャップはやめた。
トライ・アンド・エラーの中で、2019年のオフシーズンからは経験豊かなスウェーデン人コーチのスベン・グローネフェルトをつけ、2020年の終盤にはオランダ人女性のメンタルコーチをつけたという。メンタル強化については、この大会中もよく質問を受けて、「僕はどういうことをしたいのか、どういうことが今必要なのかというのを自分で気づけるような力を鍛え上げられる。でもそれができているから勝てているというわけじゃなくて、これからも続けていくプロセス」などと答えていたが、メンタルコーチにとってダニエルとの仕事はかなり楽だろうと想像する。
苦しみではなく、楽しさと面白さの先にある1ポイント
25歳のときに自己最高の64位までいったランキングも、この2年8カ月ほどの間はトップ100を切ったことがなかったから、メンタル的にも苦しさはなかったのかもしれないが、本来の考え方や生き方がハッピーでポジティブ。「人生を楽しむことが、テニスにもつながる」という意味の言葉を長年、何度も語っていたダニエルに大胆な意識改革は必要ないだろう。
「やっとテニスをゲームとしてとらえられるようになっているのかなって思う」
苦しみ抜く1ポイントとは違う、楽しさとおもしろさの先にある1ポイント。ずっと目指してきた感覚を手に入れた。それは本当にワクワクする新たなスタート地点である。