箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
箱根駅伝とアクシデント「見たくないという声も聞くが…」徳本一善、中村祐二の“大ブレーキ”を実況したアナウンサーはどう思っていた?
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byJIJI PRESS
posted2022/01/25 17:02
第78回大会の2区で途中棄権した法政大の徳本一善
小川さんが現役時代、実況で心がけていたのは次のようなことだった。
「スポーツ中継でも、ニュースを勉強しないと良い実況はできません。歴史を学んだり、記録を掘り起こしたり、勉強した中から少し遊び心も入れてね。ちょっと粋なひと言を挟むとか、そんなことはよく考えてましたね。
そして、実況は抑え気味に入ること。良い場面が来れば自然とテンポが上がるんだから、序盤で飛ばすとうるさくなる。つい最近も、私より先輩のアナウンサーが『ずっとハイトーンで行かれるとうるさいね』と話してましたが、身に覚えのある現役のアナウンサーにはちょっと考えてもらいたいです(笑)」
箱根実況の伝統「ランナー全員をフルネームで伝える」
変わりゆくもの、変わってほしくないもの、箱根実況の礎を築いた年長者だからこそ、伝えたいメッセージがきっとあるだろう。
受け渡したい実況の襷には、どんな思いが込められているのか。小川さんが静かな口調で話す。
「私たちが始めたころは、この中継で箱根駅伝をまったく知らない方にも楽しんでもらいたいという思いがあった。それが今、見る人の方にもどんどん知識が増えてきて、より深い情報を求めているところがある。専門的なことは解説者に任せた上で、もっと興味を持ってもらえるように実況者もよく勉強しなければなりません。
それと当時、私たちアナウンサーがこれだけはやろうと主張したのが、出場したランナーすべての名前をフルネームで伝えることでした。どうしても5番手以降の大学は映る場面が少なくなるけど、彼らにも見守っている仲間や家族が必ずいる。テレビで名前を呼ばれれば、親戚だって喜んでくれるでしょう。だから、中継点や通過ポイントのどこかで必ず選手全員を紹介しようと。これは良い伝統だと思いますから、ぜひ続けていってもらいたいですね」
日本テレビが箱根駅伝を映すようになってから35年余りが過ぎた。再来年には、記念すべき第100回大会を迎える。記録にはつねに更新の可能性があるように、実況もまた時代の要請とともに進歩し続けていくのだろう。
小川さんの話を聞いて、来年の箱根実況を聞くのがまた楽しみになった。
※参考文献 「箱根駅伝」不可能に挑んだ男たち 原島由美子