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箱根駅伝とアクシデント「見たくないという声も聞くが…」徳本一善、中村祐二の“大ブレーキ”を実況したアナウンサーはどう思っていた?
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byJIJI PRESS
posted2022/01/25 17:02
第78回大会の2区で途中棄権した法政大の徳本一善
もっとも印象深かったレースとは?
「今年は青山学院大が大会新記録を出しましたけど、私がやっているときにも山梨学院大が初めて11時間を切るすごいタイムで走ったんです。ケニア人留学生のマヤカがいて、あの中村が1年生で区間賞を奪った。初出場からわずか8年目での快挙でした」
そして、懐かしそうに記録が出た瞬間のことを振り返る。
「あの時もそうでした。11時間を切りそうだというのは時計を見てわかっていたんですけど、センターの私がそれを言うのは僭越だと。それで『1号車の芦沢(俊美)さん、どうでしょう、かなりの記録が出そうじゃないですか』と先頭を車で追いかけていた芦沢アナに話を振ったんです。芦沢さんはもう亡くなったんですけど、あの時のことを振り返って、『良いタイミングで来たなと思いました』って笑ってましたね」
「私たちの時代は駅伝と言えば男のスポーツ」だったが…
スタジオでマイクを持つセンターの役割は、たとえるなら司令塔だろうか。刻々と変化するレース状況を的確に掴み、味方に良いタイミングでパスを送る。実況がスムーズに流れるよう、目配り、気配りを施す。これまでにはきっと、会心のゴールと言えるような実況もあったことだろう。
「いやあ、それはないです(笑)。中継が終わって、今日の出来はどうだったかな。80点はいけたかな。やっぱりいけてないな。そんな風に考えます。私だけでなく、どのアナウンサーも満点と言える人はいないと思いますよ」
自身への評価は辛口だが、後輩たちに向けるまなざしは優しい。今年見た箱根駅伝の話題になると、こう言って、後輩たちの仕事振りを讃えた。
「私たちの時代は駅伝と言えば男のスポーツで、女子のアナウンサーが声を出すことはなかったんです。それが70回大会を過ぎた辺りから徐々に任せる場面が増えてきて、今は優勝監督インタビューなどは女性が務めている。今回もそれを見て、ああよく勉強しているな、良いテンポでやっているなと思いました。ああいう場面で延々と話を引っ張るとどんなスポーツでも間が悪くなる。そんな心配は皆無でしたね」