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《65歳直前の引退危機》「その規定は私が強く主張してきたもの」 将棋界の「序盤のエジソン」がタメ息…AI時代の変化とは
posted2022/01/23 17:01
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph by
JIJI PRESS
田中寅彦九段といえば、「序盤のエジソン」と同業者にリスペクトされたほどの革新的な作戦家として知られる。
大山康晴十五世名人の影響下にあって振り飛車が猛威を振るっていた70年代に、その決定的な対策として居飛車穴熊を連採。古い将棋にもあった言わばゲテモノ作戦に、研ぎ澄まされたプロ感覚を注入して練りに練り上げ、「寅ちゃん流」にまで高めたことで27歳でのA級入りの原動力とした。
また、飛車先不突矢倉の発明も田中によるものだった。飛車先の歩を一つで止めることで2五に桂馬を跳ねる余地を残す発想は以前からあったが、田中の工夫はさらにその先を行った。2七に空間をあけないことのメリットと、ほかの手を優先するスピード感で作戦勝ちを狙う構想を盤上に表現して、古典とも純文学とも言われた矢倉戦法に新しい可能性を吹き込んだのだ。
かつて棋聖を獲得した田中は今、C級2組で
A級に6期、竜王戦の最上級1組にも9期在籍し、88年には棋聖のタイトルも獲得した田中だが、現在は順位戦の最下級、C級2組にいる。しかも降級点を2つ持っていて、あと1つ降級点をもらうとその地位からも滑り落ちることになる。
プロ棋士にも細かい定年制度があり、4月29日に65歳の誕生日を迎える田中は、いままさにその対象者となりかけている。「60歳以上でC級2組から降級したら引退」の規定。つまり、今年度の順位戦で田中が降級点を取ってしまうと、その引退規定に引っかかってしまうのだ。
「その規定は、私が理事職のときに私自身が強く主張してできたものです。そこまで指せたらもういいでしょう、と会議の場で言った記憶がありますが、それがピッタリ自分に返ってくるとは思いませんでした」
「堅い、攻めてる、切れない」の3要素が、田中が居飛車穴熊を指すときの絶対の大局観だった。
ところが、現代の将棋の頂点に君臨しているAIの形勢判断は、「堅い」を少しも評価しようとはしない。