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進取の将棋BACK NUMBER
藤井聡太vs渡辺明の“王将戦神局”を中村太地が解説 「羽生先生と通じるのは…」「2人でなければ“将棋が壊れてしまう”のでは」
posted2022/01/22 11:02
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph by
JIJI PRESS
今回のNumberの将棋号、「名勝負特集」と銘打たれています。私も羽生(善治)先生と対局した際に感じた経験を取材していただきましたが……2022年1月9、10日に開催された王将戦第1局は、とてつもなくハイレベルで衝撃を受けました。棋士内でもこのように言っており、同じ認識を持っているなと印象です。
第2局が開催されるタイミングということもありますし、藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖と四冠)と渡辺明王将(名人・棋王と三冠)の対局が何が起きていたのか、その辺りを語っていければと。
まずは将棋中継だけでなく、テレビのワイドショーなどでも取り上げられた「8六歩」について。藤井竜王の41手目は現地の大盤解説会などでも衝撃が走り、それゆえ世間一般でも大きく報じられることになりましたが、わかりやすく表現すると、以前であれば「歩を捨ててでも、相手の歩をその場にもっていくような場所に、自ら歩を上げてしまう」ような感覚で、常識外と考えられていたものです、そこから驚きの一手として受け取られました。
ただ、ここ近年はAIにおける研究で、少し考え方が変わってきていました。この「8六歩」自体は「いい形になり得る」――という認識が徐々にプロ間で浸透しだしたところでした。
「8六歩」後の進み方に藤井竜王の凄みを感じた
では藤井竜王の何がすごいのか。私個人としては2つ要素があると思います。
1つ目は「8六歩」以降の展開です。
この「8六歩」の後に続く手としては「8七金」というものがあり、歩を金で支えてセットになるというのが常識とありました。ただ藤井竜王は「8六歩、8七金」をセットとするのではなく、「8六歩」を指した後に、ほかの場所に目を移していくという感覚が斬新だなと感じているんです。さらに次の段階を見ている、藤井竜王ならではの一手、構想が出たところに非凡さを感じています。
2つ目は、その斬新な発想を王将戦というタイトルを懸けた大舞台で実践できること、です。
単純に考えて、大舞台になればなるほど「勝ちたい」という気持ちが強くなるのは、人間として自然の摂理ではないかと思います。しかしその中で藤井竜王は柔軟さを見せて指し回しました。そこには将棋への好奇心が見えました。
強い人ほど、そういった未知の局面に飛び込む、という印象があります。冒頭に触れた羽生先生の座右の銘に「運命は勇者に微笑む」というものがあります。