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「プロレスファンは自制心が強いな…」感染急拡大の今こそ知りたい、聖地・後楽園ホールでカメラマンが見つめた“コロナ禍との戦い方”
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2022/01/23 17:00
1月3日に後楽園ホールで開催されたDDTでドロップキックを放つポコたん(男色ディーノがプロデュースしたゆるキャラ)。オミクロン株拡大前のマット界は“日常”を取り戻しつつあった
とはいえ、この年末年始の後楽園ホールには確かに高揚感があった。
12月24日の東京都の新型コロナウイルスの新規感染者数は39人。10月4日に昨年初めて2桁(87人)になってから2カ月以上が経っており、その間にイベントの規制緩和も行われた。12月10日には、新日本プロレスが『1月29日以降に後楽園ホールで開催する大会は、座席の前後左右の間隔を空けない配席でチケットを販売する』と発表していた(※状況に応じて変更あり)。
この年末年始は、興行によって観客席の一部で試験的に間隔を詰め、いよいよ本当の満員に向かって動き出した、という実感があった。
なにより、ファンがようやくリラックスして観戦できるようになっていた。その段階に至って、オミクロン株の急拡大が訪れてしまった。
プロレスファンは「模範的な観客」であり続けた
この2年間、プロレスを取材していてたびたび感じたのは、他のイベントと比べてファンの自制心が強い、ということだ。
「大声での応援は禁止」という団体からのお願いは「(大声に限らず)声を出してはいけない」と同じ意味のように受け止められていた。内閣や各自治体からのリリースで、“大声”の説明に「得点時の一時的な歓声等は必ずしも当たらない」という言葉が加えられても、それは変わらなかった。「思わず出てしまう声」は許容されていたものの、プロレス会場において、ファンは曖昧な線引きを都合よく解釈するのではなく、声そのものを全面的に抑えることを美徳としているようだった。
もちろん、極上の場面に思わず声が漏れる、ということはあった。しかしその直後に決まって訪れるのは、一瞬我を忘れかけた自分たちを戒めるかのように、冷静さを取り戻そうとする奇妙な雰囲気だった。
後楽園ホールを最も多く使用した新日本プロレスでも、例外はなかった。コロナ禍前の2019年に40回(タカタイチマニア2を含む)だった後楽園ホール大会は、2020年は7月20日の有観客試合再開後だけで24回、2021年には67回(3回の中止は含まず)開催された。観客数の制限や移動に伴う感染リスクがあるため、地方で大会を行うことが難しい代わりに、後楽園ホールを活用した格好だ。同じ場所で多く大会を行えば、複数回訪れたファンは徐々に慣れていき危機感も薄れていっておかしくないが、そうはならなかった。