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「プロレスファンは自制心が強いな…」感染急拡大の今こそ知りたい、聖地・後楽園ホールでカメラマンが見つめた“コロナ禍との戦い方”
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2022/01/23 17:00
1月3日に後楽園ホールで開催されたDDTでドロップキックを放つポコたん(男色ディーノがプロデュースしたゆるキャラ)。オミクロン株拡大前のマット界は“日常”を取り戻しつつあった
まるで、一人ひとりが「コロナ禍における模範的な観客である」というロールを率先して演じているかのようだった。それは「好きな選手や、応援している団体に迷惑をかけてはいけない」という協力態勢の表れであり、苦しい状況の中でエンターテイメントを提供し続けてもらっていることへの恩返しのようでもあった。
「主催者・会場・観客」の強固なトライアングル
コロナ禍初期に開催延期・中止や無観客試合が続いたことも、ファンの模範的な振る舞いに大きく影響しているだろう。
後楽園ホールでは、スターダムやNOAHが無観客試合を開催した。
2020年の3月8日に無観客試合を決行したスターダムは、基本的な両側からの入場ではなくビッグマッチのように向正面(北側)に入場ゲートを作り、入場時にはガスによる特殊効果も加えた。状況を逆手にとり、普段の後楽園ホール大会とは異なる豪華さを作り出すことに成功したスターダムは、その後も積極的に大会場を利用して豪華さを加速させていき、この困難な状況において目覚ましい躍進を果たすことに成功した。
NOAHは3月29日に無観客試合を行い、潮崎豪と藤田和之がゴングから30分以上も睨み合うという有観客では不可能であろう視殺戦を展開。その後、南側スタンドやバルコニーまで使う場外戦も繰り広げた。
それ以外でも、新日本プロレスやNOAH、全日本プロレスなど様々な団体が特設会場(非公開)から、「こんな時こそ少しでも楽しめれば」と配信を行った。ステイホーム中の数少ない娯楽としてファンの心を救い、同時にプロレスというものに繋ぎとめてきた。
そこから始まった困難との戦いでは、信用を失わないことが重要だった。各団体だけでなく、会場側も感染対策に気を配った。後楽園ホールは政府や東京都が定めるガイドラインに忠実に従うことに加え、リングサイドのカメラマンにフェイスシールドやゴーグルの装着を義務付ける、という格闘技の聖地ならではの発想の予防策も講じた。
入退場時の動線や物販方法など、基本的に現場は各主催者に委ねられたが、ハイレベルな感染対策は会場側と各団体が築き上げてきた信頼関係なしでは成り立たなかったことだろう。