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「コーチとしての康生さんに幻滅したこともありました」鈴木桂治(現・男子代表監督)に井上康生が明かした“ロンドン五輪の後悔”
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byTomosuke Imai
posted2021/12/29 11:06
井上康生の後任として、柔道男子日本代表監督を務める鈴木桂治。「コーチとしての康生さんに幻滅したことも」と語る理由とは
鈴木 匡先生が言うのは肉体的な疲労度という意味だと思います。そこがある意味、マジックなんですよね。体力的に追い込めば、やった気になってしまう。井上体制は、決してやることが減ったわけではない。やること自体は、むしろ昔より増えていますよ。座学もそうだし、畳の上での確認作業などもそうだし。頭の疲労度は、今までの何倍にもなっていたはずです。
「コーチとしての康生さんに幻滅したこともありました」
――康生さんは、なぜそこまで劇的にシフトすることができたのだと思いますか。
鈴木 篠原(信一)体制時代のコーチだったからだと思います。康生さんは、ロンドン五輪で惨敗した時のコーチなんですよね。当時、マスコミは篠原監督のことを叩いていましたけど、その下には井上康生もいたわけです。康生さんも自分で言っていました。「篠原時代の自分は何もできなかった。それをずっと後悔していた」と。
コーチ時代の康生さんは、僕らの要望を何も聞いてくれなかった。僕も当時は選手として30歳を過ぎていて、いろいろなものが冷静に見えるようになっていたので、康生さんに「こんな練習じゃあ……」と言っても「桂治、やるしかねえんだよ」というスタンスだった。なので正直なところ、コーチとしての康生さんに幻滅したこともありました。
前に対談させてもらった時、恨み節になっちゃいますけど、あのときはきつかったと話したら、「ほんと、申し訳なかった」と言ってくれました。だから、いろんな人があの人のことを英雄視したいのはわかりますけど、日本柔道のためにも、井上康生は天才でもカリスマでもなかったということは忘れない方がいいと思うんです。ただ、失敗から学んだのだと思います。
――ただ、失敗しても、変われない人は、たくさんいますものね。
鈴木 変われたのは、あの人の勇気であり、努力だったと思います。だから、これだけの結果が出た。でも、コーチ時代の康生さんを知っている関係者は「どうしちゃったんだ、あいつ?」って驚いたと思いますよ。あいつの中で何が起きたんだ、って。(つづく)
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